KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年12月号
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超伝導電磁石による磁場中で、axionを電磁波に変える↓その電磁波を超伝導空胴中でリドベルグ原子に吸収させる↓リドベルグ原子を電離させて検出する超伝導電磁石空胴磁場冷凍機リドベルグ原子電離装置レーザーCARRACK( Cosmic Axion Research with Rydberg Atoms in the Cavity in Kyoto)アクシオン電磁波雑音電磁波の数は、温度に比例し、信号と同じ一秒間に一個ていどにするには、〇・〇一ケルビンもの極低温にしなければなりません。その温度まで冷やすために、希釈冷凍機という特殊な冷凍機で空胴を冷却します。…と、ここまで説明してきましたが、読者のみなさんはついてきていますでしょうか。何が何やらわからないほどに複雑ですよね。ご安心ください、この仕組みは、物理学者から見ても複雑すぎるのです。この方法を最初に聞いた物理学者の一〇人のうち一〇人が、これを「複雑すぎる」と言います。この実験は、あまりに複雑すぎることから、実はうまくいかなかったのです。改めて、この写真をご覧ください。装置の周囲にいる人の中に、金髪がいるでしょう? そう、これは、僕が京都大学時代に携わった実験だったのです。実験名は、Cosmic Axion Research with Rydberg Atoms in the Cavity in Kyoto(空胴中でリドベルグ原子を用いた宇宙アクシオンの京都での探索実験)、略してCARRACKです。CARRACKとは、帆船の一種で、たとえばコロンブスが西インド諸島に辿り着くのに用いた帆船サンタ・マリアがこれに当たります。もう、名前からして複雑でしょう?この実験に携わることで、僕は学者の基礎として本当にいろんなことを学びましたが、一番大きな学びは、「実験は、単純でなければならない」ということでした。PROFILE 多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。54

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