KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年12月号
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磁場をかけていない超伝導空胴の中に入ります。この電磁波を検出するのですが、アンテナを使わず、リドベルグ原子に吸収させます。リドベルグ原子とは、その中の電子のひとつが電離寸前の極めて高い軌道まで上がった原子のことです。リドベルグ原子にはルビジウムなどを使います。ルビジウムの蒸気に空胴に入る寸前でレーザーを照射し、電子を極めて高い軌道に上げます。そしてそのリドベルグ状態になって空胴の中に入ったルビジウム原子は、アクシオンが変化した電磁波を吸収して、さらに高い軌道へと移動します。それが空胴を抜けた直後に、電圧をかけてこれを電離し、信号として捕えます。電磁波を吸収したリドベルグ原子と、吸収しなかったリドベルグ原子とでは、電子の軌道が異なるために、電離するための電圧が異なるので、吸収したか否かを判断できます。これで電磁波をひとつずつ区別して検出できるのですが、問題は雑音で、同じような周波数の「アクシオンとは関係のない」電磁波が、空胴の中を漂っています。このうど電子レンジの周波数帯くらいで、通信にもよく使われているので、アンテナで拾うのが普通です。しかし、このような低出力の電磁波を、周囲の雑音と区別して検出するのは普通ではありません。雑音のほうが何桁も大きいのですから。みなさんの家の電子レンジの出力は数百ワットもあるでしょう!最初、シキヴィエ率いるグループは、この電磁波を、極低温に冷やした特殊なアンプを使って検出することを試みました。それでも雑音のほうがはるかに大きく、困難でした。そこで、京都大学で考え出されたのが、リドベルグ原子を使った検出方法です。図に、その概略図と、実際の実験装置の写真を示します。共振空胴は、二つ用意します。まず、下の空胴を超伝導電磁石の中に入れ、その強力な磁場(七テスラかけます)でアクシオンを電磁波に変えます。前回お話しした通り、アクシオンはどこにでもありますから、空胴を用意するだけでその中に勝手にアクシオンが入っています。アクシオンが変化した電磁波は、隣の、にもいくらでもあります。しかし、これが電磁波に変わる確率はとても低く、それは磁場の強さに比例します。アクシオンを電磁波に変えるには、共振空胴(Cavity)という、金属でできた容器を使いますが、我々が手で持てるくらいの容器、例えば数リッターくらいの容積の共振空胴だと、数テスラほどの磁場をかけても、一秒間に一個のアクシオンが電磁波に変わるていどです。数テスラという磁場は、人類がつくることができる最も強力な電磁石である超伝導電磁石でようやく発生させることができるくらいの強さです。それをもってしても、一秒間に一個しかつくれないのです。そしてこれを計測するのがどれくらい困難かを説明しましょう。アクシオンが冷たい暗黒物質であった場合、それが電磁波に変わると、二ギガヘルツていどの周波数の電磁波になると考えられています。これが一秒間に一個だとすると、その出力は、〇・〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇一ワットしかないのです。二ギガヘルツというと、ちょ53

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