KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年12月号
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高エネルギー加速器研究機構の多田と申します。前回は、「冷たい暗黒物質」の候補二つのうち、ニュートラリーノの探索実験についてお話ししました。今回は、もうひとつの候補、アクシオンの探索実験についてお話ししましょう。前々回もお話しした通り、ニュートラリーノとアクシオンはまるで真逆の性質を持っています。そのため、同じ「冷たい」暗黒物質だといっても、その探索方法はまるで違います。前回お話ししたように、ニュートラリーノはとても重いので、ほかの粒子とぶつかるとそれを弾き跳ばします。その弾き跳ばされた「反跳」粒子を捕まえることで間接的にニュートラリーノを観測する、ということでした。しかしこの方法は、アクシオンには使えません。なぜなら、アクシオンは電子の一〇〇〇億分の一、ニュートラリーノの一京分の一の質量しかないと考えられているからです。この軽さでは、ほかの粒子を弾き跳ばすことはできません。そこで、アクシオンの性質を理論の面から考えていきます。未だ発見されていないわけですから、実物を調べることはできません。すると、第28回で紹介した、アクシオン研究の第一人者であるピエール=シキヴィエが、アクシオンが磁場中で電磁波に変わることを見つけ出したのです。ただし、とても強い磁場が必要です。アクシオン自体は、これまた第28回でお話しした通り、宇宙に、そして我々の身の回り多田先生!ニュートリノと 宇宙のはじまり教えて 連載〜第30回〜 「アクシオンの探索」自然界で最も大きな存在が宇宙、そして最も小さな存在が素粒子と考えられている。素粒子を研究することで、宇宙のはじまり、人間の存在を解明する︱︱ 日本の誇りをかけて、その最前線で日々研究に打ち込む素粒子物理学者・多田将先生。謎に包まれた宇宙について多田先生に教えていただきます。さあ、授業のはじまりです!52

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