KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年12月号
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鈴木と松谷、二人の心の奥には今も慎太郎が元気なころのままの姿で現れ、脳裏には彼の笑顔が鮮明に蘇っているに違いない。取材中、何度もそう感じた。 慎太郎のことを話す二人の瞳には涙がにじんでいた。〝奇跡のバックホーム〟が生んだ映画化《2013年、鹿児島実業高校3年の横田慎太郎(松谷鷹也)はドラフト2位指名を受け阪神タイガースに入団する。“大器のスラッガー”としての期待を背負っての入団3年目。開幕戦一軍のスタメン選手に選ばれ、初ヒットを放つ。順風満帆な野球人生が始まった…かに見えたが、体の異変に気づく。ボールが二重に見えるのだ。脳腫瘍と診断される。母、まなみ(鈴木京香)は仕事を辞め、慎太郎の看病に専念する。3年が過ぎ、日常生活が送れるほどに回復した慎太郎だったが、プロ野球選手の道をあきらめ、引退試合に臨む。最後のプレーで慎太郎が見せたセンターからの渾身の仰ぎ見る松谷のそばに、そっと寄り添う鈴木。「今、慎太郎さんと甲子園球場のマウンドに一緒に立っていますよ」そう伝えた松谷も、慎太郎と同じくかつて甲子園を目指した高校球児だった。慎太郎と鷹也へ―。鈴木の拍手は“二人の息子”へ贈る“母”からの拍手のように見えた。《遡ること6年前のこの日。阪神鳴尾浜球場で行われたウエスタン・リーグの引退試合に慎太郎は出場していた。もう正確にボールが見えなくなった眼で…》取材は、このファースト・ピッチが行われた翌日、大阪市内で行われた。よう」そんな祈りだったと松谷が教えてくれた。ノーバウンドでストライクを取った後、ほっとしたように天を鈴木 京香(すずき きょうか)1968年生まれ、宮城県出身。森田芳光監督作『愛と平成の色男』(89)で俳優デビュー。NHK連続テレビ小説『君の名は』(91)で注目を集める。『119』(94/竹中直人監督)で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。『ラヂオの時間』(97/三谷幸喜監督)、『39 刑法第三十九条』(99/森田芳光監督)、『竜馬の妻とその夫と愛人』(02/市川準監督)で同優秀主演女優賞、『血と骨』(04/崔洋一監督)では同最優秀主演女優賞を受賞した。主演したドラマ『セカンドバージン』(10/NHK)は社会現象となり、2011年には映画化。また、2019年放送の人気ドラマ『グランメゾン東京』(TBS)ではヒロインを演じ、同作を映画化した『グランメゾン・パリ』(24/塚原あゆ子監督)も大ヒットを記録。22

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