「私がマウンドへボールを運んで行ったとき。(松谷)鷹也君が天国にいる慎太郎さんに話しかけているように見えたんです」と鈴木は答えた。あの瞬間。確かに鈴木からボールを託された松谷は投げる直前、胸にグラブを抱え、天に向かって祈っているように見えた。「慎太郎さん、一緒に投げ甲子園のマウンドでの祈り…〝母子〟の奇跡の物語は永遠に…チのセレモニー。鈴木からボールを受け取った松谷は力強い速球でストライクを決めると、ホームベースを背にし、しばらく甲子園の夜空を見つめていた。笑顔で松谷に駆け寄った鈴木もその横で両腕を空へ捧げるようにしながら拍手する姿が印象的だった。二人に確認したかった。何をしていたのですか?天国へと連携されたボール今年9月26日。鈴木と松谷の二人は、阪神甲子園球場のマウンドに立っていた。横田慎太郎が現役時代に使っていた背番号“24”と“SHINTARO”の文字が刻まれたグラブは松谷の右手にはめられていた。試合開始前のファーストピッ文・戸津井 康之撮影・黒川 勇人 新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。 第61回は、2年前、28歳で早世した元阪神タイガースのスラッガー、横田慎太郎と彼の闘病生活を支えた家族や仲間たちの葛藤の日々を描いた映画『栄光のバックホーム』で母子役で共演した女優、鈴木京香と新人俳優、松谷鷹也。二人のキャスティング秘話も、まるで映画のように感動的な〝奇跡の物語〟だった。THESTORYBEGINS-vol.61■女優■鈴木 京香さん■俳優■松谷 鷹也さん⊘ 物語が始まる ⊘20
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