「蚯蚓」と書いて「ミミズ」と読む。何を考えているのか表情が読めないグロテスクな紐状の生き物。昆虫のように頭・胴・胸がなく「環形動物」に分類される。驚くことにオス、メス区別のない「雌雄同体」で世界では約6000種、日本でも約400種が確認されている。兵庫県丹波市には興味深い伝承が残る。江戸時代の医師・寺島良安が編集した百科事典『和漢三才図会』によると山間で雨後に3~4メートルほどの巨大なミミズが2匹出現したと記されている。かつてドイツの医師・シーボルトが持ち帰り標本に記載した国内最大級の「シーボルトミミズ」で50センチ前後。では人々は何を見たのだろうか?兵庫県や山陰地方では雨後に「龍」や「大蛇」を見たという記録が数多く残されている。以前、現地取材をした際に有識者が「パレイドリア」と説明してくれた。視覚や聴覚で刺激を受けた際に普段からよく知っているものに置き換える知覚現象によるものだという。山間部の水源地域では災害後の倒木が長くて巨大な生物に空目されるケースが多い。更に近隣の巨石、滝、寺院仏閣など信仰の対象になるものが合わさり「祟り」「お告げ」のような神話を生む。全国的に巨大生物の逸話が残る地域は開発から免れるケースが多い。これは先人たちが故郷を守るために意図して語り継いだともとれる。かつて妖怪や伝説の生物が見たかもしれない日本の原風景がそこにはある。第143回地元にまつわる妖怪・UMA・生物の謎を探る!!『ひょうご五国の怪物たち 丹波・大蚯蚓』神戸のカクシボタンkakushi button写真/文 岡 力■岡力(おか りき)放送作家・コラムニスト・イラストレーター、ふるさとが神戸市垂水区。関西の大衆文化をテーマとした執筆、番組を企画。日本放送作家協会関西支部事務局長・大阪芸術大学短期大学部客員教授、心斎橋大学・神戸電子専門学校講師。龍、蛇ではなく蚯蚓と言うのが面白い兵庫県の山間部に生息する「シーボルトミミズ」91
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