た。これは、QALY(生活の質の保たれた寿命を1年延ばすのにかかるコスト)を評価するものです。その評価により費用対効果の悪い品目は価格を引き下げ、医療費の減少につながる品目については価格を引き上げるようになりました。高額医薬品の最適使用を推進していけば医療費も削減できると思われますので、個別化医療の研究を進めて高額医薬品の実施前に効果の予測ができれば、医療費の削減に貢献するでしょう。また、診療ガイドラインにも費用対効果を考慮した記載を行っていく必要もあるでしょう。高額医薬品の最適な使用のためには、施設要件や医師要件を設定することも望ましいと思います。─国会で高額療養費制度の見直しが議論されましたが、これはどんな制度ですか。武部 窓口負担が高額となった場合、自己負担限度額という一定の上限額を超えた部分が払い戻される制度です。高額療養費は年々増加しており、平成18年は1.5兆円、対GDP比4.5%でしたが、令和3年には2.9兆円、対GDP比6.3%になっています(図1)。令和7年度予算案で上限額の引き上げなどを含む見直し案が出ましたが、さまざまな方面から反対の声があがり、引き上げ案は凍結され、今年の秋までに高額療養費制度の方針を検討することになりました。今後も高額な治療や医薬品は開発・使用されていくので、高額療養費はさらに増加していくと予想されます。ですから、高額療養費制度を維持するためには、年収に応じて上限額を決める、費用対効果を考慮して効果の少ない治療については自己負担の上限額を引き上げるなど、何らかの見直しや変更が求められるでしょう。─増加する医療費に対し、何らかの対策は必要ですね。武部 保険範囲の検討も必要になってくるかもしれません。フランスでは薬の有効性や治療効果に応じて償還率が異なる制度を取り入れていますが、日本でも治療の有用性の評価によって自己負担割合を変える制度を取り入れるというのもひとつの考えだと思います。現在、医療保険は同一保険料で、同じ所得であれば窓口負担割合は同じです。一方で民間の医療保険では、追加料金を支払うと保険でカバーされる範囲が広くなる制度が取り入れられています。これを公的保険制度に取り入れると公費の部分が減らせる可能性があるのではないでしょうか。─保険制度も曲がり角に来ているのかもしれませんね。武部 医療費は年々増えており、今後も増加していくことは間違いないでしょう。ですから、良い医療を安価で受けることができる皆保険制度を持続可能とするためにも、良いものにはお金がかかることを認識し、どの部分にお金をかけていくのかを検討しつつ、社会情勢に応じて対応していくことが不可欠です。85
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