れらの原点は神戸にある。ウスターソースは19世紀にイギリスのウスターという街で誕生、日本にも明治維新の頃にはすでに輸入され、西洋料理の隠し味として使われていた。これをサンプルにして国産ソースを開発したのは、仙台藩の藩医の家系に生まれ、日本近代窯業の父と評されるドイツ人技師、ゴッドフリード・ワグネルに工業化学を学んだ安井敬七郎だ。ある日、敬七郎はワグネルと神戸で食事をしていた。その時に「神戸には美味しい肉があるのに、なぜ美味しいソースがないのか?」とワグネルがふと漏らしたひと言に魂が揺さぶられ、敬七郎はソースの研究に没頭、明治18年(1885)に独自のソースを完成させた。ところが当時は販路がなく、薬効成分のある香辛料をふんだんに含むこともあって薬局を通じて流通させたという。その後敬七郎はウスターソースの本家、イギリスのリー&ペイン社で指導を受け、帰国後神戸に日本初の本格的なソースメーカー、安井舎蜜工業所を開設。やがて阪神ソースに発展し、同日本人シェフたちが伝統の味を継承。神戸の洋食の美味しさの秘訣はソースにある30
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