離れ、徳島へ向かう。「出演しよう」と関心を引き寄せられた大きな理由は脚本のなかで描かれていた桂木立の人物造形とその生きざまだった。「私が幼いころ、母は喫茶店を経営していました。かつて“喫茶店の娘”だった私にとって、立の人生は、まるで自分のアナザー・ストーリーではないかと思えたんです」この映画は、徳島県吉野川市市制20周年と、同市に隣接する板野町町制70周年を記念し、企画された。「実は私自身も徳島県とは深い縁があるんですよ」と、こんな“秘話”を教えてくれた。「大学の卒業論文のテーマで私が取り上げたのが、徳島県出身の作家、北條民雄でした。映画出演が決まる前にも、北條を紹介するテレビ番組の取材で、徳島県を訪れていたので、何か深い因縁を感じました」劇中、徳島県に移住し懸命に生きるベトナム人たちとの触れ合いのなかで、ベトナム料理映画のなかのヒロインが、まるで“自分の投影”のようだったから…。腎臓の病気を克服しての女優復帰。想像もしていなかった26年ぶりの映画主演が決まった。「人生、何が起こるか分かりませんね。生きていて本当に良かった」そう素直に心情を吐露した。徳島との絆都会で小さな喫茶店を営む桂木立(中江有里)。家族もなく余生を一人で生きていこうと決めていたが、再開発で店の立ち退きを迫られ、閉店。さらに健康上の問題も起こり、そこへ突然、徳島県吉野川市から相続の通知が届く。立は都会をきは、半分、何かの冗談じゃないかと疑っていたんですよ」と苦笑しながら明かす。だが、届いた脚本を読み進めるうちに、次第に魅了され、作品のなかへ引き込まれていったという。もう一度、映画現場へ戻ろう―。そんな思いを抱かせたのは、映画『道草キッチン』より22
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