KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年11月号
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本誌6月号「けんびの『美』」vol.7でご紹介した「2025コレクション展Ⅰベスト・オブ・ベスト2025」も会期終盤に差しかかりました。4月から12月まで、今までになく長丁場の展覧会ですが、その間、作品保護の理由により版画、写真、日本画については2、3か月ごとに展示替えをしています。今回は日本画の「ベスト」をご紹介しましょう。本展では、会期を4期に分け、「季節への眼差し」という観点から、春夏秋冬にことよせた日本画を展示しています。古来季節の移ろいは詩歌に詠まれ、絵画に描かれてきました。近年では気候変動の兆候のためか日本の四季の様相も変化しつつあるようですが、季節は日本画の本質的な要素であり、日本画は四季それぞれの景物を享受する人々の共通感覚に支えられ、育まれてきました。 近代以降、そして戦後、日本画は西洋絵画の思想や造形を取り入れながら展開しましたが、やはりその芯の部分に画家が折々に感じ取った季節感や自然への感受性が貫かれているように思えます。ここでご紹介するのは、かつて国民画家とも呼ばれ、日本風景の四季を鮮やかに描き出した東山魁夷(1908︲1999)の若き日の大作《焼岳初冬》です。青少年期を神戸で過ごした東山魁夷は、東京美術学校へ入学した年の夏、仲間とともに信州を旅します。その時に目にした雄大な山岳風景に心打たれ、その風景体験が彼の画家としての出発点となりました。コレクション展秋期に展示した《山国の秋》は在学中に帝展初入選となった作品。それに続く作品が本作です。前景の冬に向かう木々と渓流、中景の木立、焼岳の険しい山肌と降雪にかすむ頂上へと視線が導かれ、北アルプスの名峰、焼岳の威容が細やかな自然観察のもとに丁寧な筆致で表現されています。縦2メートル超の大画面は初期の作品の中でも最大級のものです。東山はのちに、山国との出会いは「人生の開眼であり、自然の発見であった」と述べています。風景にその時々の自己を投影して描く東山のスタイルの原点がここにあります。(学芸員・飯尾由貴子)■神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1■TEL.078-262-1011■休館日:月曜 (祝日・振休の場合は翌日)■開館時間:10:00-18:00 (展示室への入室は17:30まで)兵庫県立美術館HYOGO PREFECTURALMUSEUM OF ARTベスト・オブ・ベスト2025 日本画(秋期)の展示風景13

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