〝風太郎〟誕生秘話ロングセラーの人気小説『甲賀忍法帖』や『伊賀忍法帖』など忍法帖シリーズで知られる作家、山田風太郎(1922~2001年)は兵庫県北部、但馬出身の作家である。現在、兵庫県の市では最も人口が少ない養父市(当時の養父群関宮村)に生まれ、幼少時代を但馬で過ごし上京。作家の江戸川乱歩に見いだされ、ミステリーをはじめ多岐にわたるジャンルで数多くの著作を遺した。2001年、79歳で死去後、来年没後25年の節目を迎える。今も彼の小説を原作に映画、テレビドラマなど映像化や漫画化などが繰り返されていることからも、その人気の健在ぶりが伺える。昨年は滝沢馬琴を主人公にした長編小説『八犬伝』が大作映画として蘇った。名優、役所広司が馬琴を演じ、大ヒット映画「ピンポン」などを手掛けてきた重鎮、曽利文彦監督がメガホンを執り、話題をさらった。彼が日本文学に刻み付けた独特の世界観は、死去後も色褪せることがないことを証明した。戦後文学の最高峰の一人と称される彼の死去から約10年後…。今から15年前の2010年。大手出版社「KADOKAWA」が、新たな文学賞を創設し、注目を集めた。その文学賞の名称は「山田風太郎賞」。このとき、同賞の審査委員を務めた神戸出身のSF作家、筒井康隆氏は、同じ郷土、兵庫が生んだ大先輩の山田風太郎に対し、最大限の敬意をこめて、こんな熱いメッセージを寄せている。《山田風太郎。なんと刺激的な名前だろう。その名を冠した文芸賞の選考委員たちにとっても、その候補となる人たちにとっても、この名は大いなる刺戟となるであろう》筒井氏の言葉に力が入るのも無理はない。同じ故郷・兵庫県生まれの先輩作家が、日本文学史に遺した著作の質・量は圧倒的で、筒井氏をはじめ、その後の日本の小説家たちに与えた影響は多大で、その功績は計り知れないからだ。 ちなみに、「山田風太郎賞」の第1回の受賞者は『悪の教典』(文芸春秋)の貴志祐介氏。阪神タイガースの大ファンで、自宅は甲子園球場の近く。西宮市在住の作家の受賞というところにも〝兵庫ゆかり〟の文学者としての系譜を、そして、何かの因縁を感じさせる。山田風太郎という名は、筒井氏が語るように、誰しもが一度聞いたら忘れられない強い衝撃を受けるが、もちろんペンネームである。神戸偉人伝外伝 ~知られざる偉業~前編山田風太郎但馬が生んだ文豪秘話…母の死を乗り越えて書き続けた傑作118
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