KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年10月号
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した(図3)。─その結果、社会保険料はどうなりましたか。木村 家族手当を全額負担する事業主の保険料率は7%から5・4%に引き下げられました。1990年は社会保障基金の収入の86%が社会保険料でしたが、2020年には56%に減少しています。その反面、CSGをはじめとする税収の割合が増加し、これが社会保障負担率の大きさに影響しています。ちなみにフランスは付加価値税、いわゆる消費税の税制度を世界で最初に採用し、導入当初から税率が高いまま推移していますが、これも租税負担率の高さに寄与していると思われます。─税の高負担が社会保障の充実とトレードオフなのですね。木村 フランスの社会支出増大は社会保障制度の充実が主たる要因ですが、歴代政権が複数の医師組合との交渉・組合相互の利害調整が困難なため医療費抑制が叶わなかったことも一要因と考えられます。また前述のように、フランスでは社会支出増大に対し当初は保険料率と医療費自己負担のアップなどで対応し、更なる社会支出増大に伴いCSGなどを新設・拡大することで賄うようになりましたが、これを成しえたのは国民全体が社会保障に対し高い信頼を寄せていることが大きいと思います。租税負担は、付加価値税が導入当初から高いことに加え、各政権が課税対象拡大と税率引き上げを進めてきた結果として、現在の高い水準に至っていると言えるでしょう。─同じ国民皆保険制度のフランスの事例に日本が学ぶべきところはどこでしょうか。木村 フランスでは社会支出を削減しませんでしたが、その一方で財源確保に対し真正面から取り組み、社会的公正や財源の整合性をいかに実現するかを考えてきたと言えます。かたや日本では診療報酬改定を通じて医療費削減がなされてきましたが医療費削減も限界にきており、社会支出も増加傾向にあるにもかかわらず財源論が後回しにされてきた感があります。フランスに見習うべき点は何よりも、問題を先送りせずに、いますぐ現実に真正面から対峙して議論することではないでしょうか。99

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