KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年10月号
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有馬温泉には数多くの宿があるが、中でも最も長く時を紡いできたのが御所坊で、創業は1191年とされている。もともとは「湯口屋」とよばれその名の通り湯殿の脇に位置し、秀吉の御殿造営のため強制的に現在の場所に移転させられたが、近代を迎え神戸から外国人が避暑などで訪ねるようになった明治の中頃、〝音に聞く〟鼓ヶ滝からせせらぐ滝川沿いというこのロケーションを生かして粋な「御所坊川別荘」が建てられた。これが現在の「御所坊本館」の原型だ。その後、1931年に西側にやや屈曲した形で増築。玄関のある東面が切妻なのに対し、この増築部分は入母屋になっている。いずれも木の温もりを大事にした木造だ。1955年には本館の南、少し高くなっている場所に「御所坊新館」を整備。桟瓦葺き屋根など本館のテイストを引き継ぎつつ、内装は水平・垂直のラインを軸とした幾何学的な意匠で統一されている。御所坊本館 国登録有形文化財御所坊本館 和洋特別室❸ 街の歴史を刻む建築物    ~泊まれる文化財有馬温泉は室町時代になるといわゆるリゾート的な性格を持ちはじめ、豊臣秀吉によるインフラの整備もあり、江戸時代に大衆化していく。その頃は「有馬千軒」といわれ、数多くの宿がひしめき合うように並んでいたというが、その賑わいは近代にも引き継がれ、当時の建築は現在もかつての温泉地の雰囲気を醸している。御所坊本館・新館・土蔵(国登録有形文化財)やがて1980年代、旅館の多くが鉄筋コンクリートのホテル建築へと移行する中、御所坊は41

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