KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年10月号
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ねがい坂の石段を登り詰めると、正面に温泉寺の本堂が聳えるが、その正面の前に2つの立派な五輪塔が立っている。「温泉寺石造五輪塔」だ。本堂に向かって右が慈心坊尊恵、左が平清盛の塔と伝わっているが、いずれも鎌倉時代の中期~後期に寺または篤信者たちによって設置されたもので、左の方が若干古いとみられている。2基ともその高さは約2.5mと大人の身長より高く、どっしり堂々とした石塔だ。30年前の阪神・淡路大震災では左塔の一部が破損した。しかし現在は修復されただけでなく、今後の地震に備えて地面の基盤もしっかりと整備されているので、これからも永くこの場所にその価値を留めるであろう。慈心坊尊恵とはもともと宝塚の清荒神の僧侶。熱心な法華信者だった尊恵は、閻魔王に招かれて4度ほど冥府に行ったという伝説がある。1172年黄檗宗 有馬山 温泉寺温泉寺石造五輪塔(神戸市指定有形文化財)❶ 温泉寺ゆかりの文化財  ~閻魔と有馬の深い縁有馬温泉は奈良時代に行基により整備されたとされているが、温泉寺はこのときに開基されたと伝わる古刹だ。古来より湯治客の崇敬を集め、数々の寺宝がここにあったと思われるが、狭い谷地に建物が密集している有馬は水害、火災、地震などにたびたび見舞われその多くが失われた。しかし、数々の災禍をかいくぐってきたいくつかの貴重な文化財が、この伽藍の歴史を黙して語っている。34

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