ら、本当にそうなっているのかを調べるのが実験物理学者の仕事です。みなさんだったらどう調べますか。僕ならゆすってみます。振り子ならゆれるはずです。そして、この「ゆれ」こそが、アクシオンという粒子そのものなのです。シキヴィエ氏は、実際に研究会でお逢いしたことがありますが、とても上品な方ですので、せっかくのプール・テイブルなので、ここでビリヤードをしてみる、とのことでした。すると、球がクッション(プール・テイブルの端)に当たった反動で、テイブルがゆれるだろう、というわけです。これが、加速器を使ってアクシオンをつくり出す実験です。この実験は、ペッチェイ・クイン理論が発表されてからすぐに行われましたが、結局、アクシオンをつくり出すことはできませんでした。では、振り子構造ではなかったのか。物理学者はそうは考えませんでした。ではどう考えたのか。振り子が長すぎて、ビリヤードの球が当たったくらいではゆれなかった、との結論に達したのです。振り子の長さはアクシオンの質量に反比例し、つまり、振り子がとても長いということは、アクシオンがとても軽いことを意味します。加速器でつくり出すには軽すぎたのです。実際、アクシオンが「冷たい暗黒物質」であった場合には、なんと電子の一〇〇〇億分の一ていどの質量であると考えられています。他の素粒子と比べて、文字通り桁違いの軽さです。では、どうすればこの構造を調べることができるのでしょうか。そこでシキヴィエ氏は妙案を考え出します。このような振り子構造のテイブルを置いたら、そのときの反動でゆれるだろう。そして、振り子の長さがあまりに長いので、宇宙のはじまりに置かれたこのテイブルは、今でもゆれ続けているだろう、と言ったのです。振り子は、長ければ長いほど、長時間ゆれ続けるからです。だから、宇宙初期のゆれ言い替えれば、宇宙初期につくられ、現在もそのまま宇宙に存在し続けているアクシオンを、探索によって発見しよう、というわけです。実際、ペッチェイ・クインの理論が正しければ、宇宙初期に大量にアクシオンがつくられたという計算になります。それこそ、宇宙の質量のかなりの部分を占めるほどに!では、どのようにして探索するのでしょうか。次回はそれについてお話しします。PROFILE 多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。32
元のページ ../index.html#32