〝若き才能〟からの出演依頼5月、カンヌ国際映画祭で1本の日本映画が会場を沸かせた。団塚唯我監督が、日本人監督史上最年少で同映画祭「監督週間」の出品作品に選出されたのが、『見はらし世代』だった。当時、26歳の若い監督からの出演の依頼。共演する主演俳優も若手の黒崎煌代。監督の長編デビュー作となる脚本を手に取り、遠藤は素直にこう感じたという。「久々に〝リアルな本格派〟の長編映画の依頼が来たな」と。いつになく、自然とそう意識したことには理由がある。売れっ子俳優として出演依頼は絶えない。今年も出演した映画5本が公開される。そのうちの1本、映画『ベートーヴェン捏造』では古田新太演じるベートーヴェンの友人役を演じ、『劇場版 孤独のグルメ』では〝バイプレーヤー仲間〟である盟友、松重豊の監督兼主演作に俳優役で登場する。いずれも松竹、東宝配給の大作だが、エンターテインメント性が高く、コメディー要素の強い役を演じる機会が続いていたからだ。『見はらし世代』でオファーされた役は、世界的に活躍するランドスケープデザイナー。街を設計し、都市をデザインするという職業だ。家庭では妻と娘、息子を持つ4人家族の父という役柄だった。物語は、別荘での家族旅行に向かう途中のサービスエリアの場面から始まる。小学生の息子、蓮はサッカーボールのリフティングに夢中だ。初(遠藤憲一)の運転する車で別荘に着くが、初の態度は落ち着かない。東京の仕事先から、「大規模なコンペの最終選考に残った」と連絡が入ったのだ。初は妻、由美子(井川遥)に、「いまがすごく大切な時期。俺にとって大きな分岐点になると思う」と話すが、妻は「この三日間は家族に集中してと言ったのに」と不機嫌だ。そんな妻と二人の子供を別荘に残し、初は東京へ戻る…。それから10年後。海外での仕事を終え、帰国した初は、東京・渋谷で、成長した蓮(黒崎煌代)と久々に再会するが…。脚本を読み、この若い監督に遠藤は「強い興味を覚えた」と言う。すぐに団塚監督が撮った短編映画『遠くへいきたいわ』を観て、新たな才能を確信し、「この監督の作品に出てみたい」と思った。「画角、テンポなどすべてが斬新。これまで見たことのない映像に驚かされました」数多くの映画に出演してきた〝日本俳優界の重鎮〟を、こう感心させたのだ。〝かつてない映画〟の予感…変貌を遂げる東京・渋谷駅前の桜が丘エリアをはじめとする近代都市の街並みのショット。初の着る洋服や、デザイン事務所のインテリア、愛用のヘルメットに大型バイク…。27
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