公演を見ながら、「この戯曲を演じるのなら、この俳優がふさわしいのではないか」と考えるようになる。大竹しのぶの『奇跡の人』、白石加代子の『百物語』など、笹部の企画から生まれ、日本演劇史に名を刻んだ名舞台は多い。「『奇跡の人』は、5年かけて大竹しのぶさんを口説き落としました」と明かす。このほか、『身毒丸』での武田真治、藤原竜也など気鋭の若手を舞台俳優として抜擢し育てるなど、企画からキャスティングなど演劇プロデューサーとしても頭角を現す。「配役を決めたり、演出家を選んだり…というのがプロデューサーですが、自分のイメージ通りの芝居にならないときがある。そんなときは自分で演出するしかない。だから、演出家の仕事もだんだん増えていきました」一昨年、初上演し大好評だった中井貴一とキムラ緑子の朗読劇『終わった人』も笹部が企画し、脚本、そして演出を手掛けた。原作は作家、内館牧子の同名小説。翌年の再演が決まるやチケットは即完売の人気。「ベテランの実力派2人には、どう演出するのですか?」と問うと、「この二人には私の方が演出されてしまって…」と柔和な笑顔で、その〝舞台裏〟は煙に巻かれてしまった。笹部の話から演出家と俳優の信頼関係がいかに厚く深いかが分かる。そんな座組から紡ぎ出されていく芝居の神髄とは。「舞台の上では演じるのではなく、その人物になりきる…。芝居はフィクションですが、舞台の上で演じている俳優の演技はドキュメンタリーのようなもの。そう思っています」10月には、中山優馬、柴田理恵、風間杜夫、白石加代子の新旧実力派が〝競演〟する『大誘拐』の公演が控え、来年3月には『終わった人』の再々演が決まった。さらに、その先に構想中の舞台がある。タイトルは『老害の人』。内館の高齢者小説の一作で、友近、千葉雄大の出演で来年5月の上演に向け、現在、準備を進めているという。「内館原作を戯曲にした公演をシリーズ化できれば」と語る笹部の声に熱が帯びた。俳優も作家も音楽家もスタッフも…。一緒に仕事をすれば、その企画力や演出力に魅せられ、何よりもその創作への情熱に惚れ込む。だが、誰よりも芝居の魔力にとりつかれてしまったのは、〝生粋の演劇青年〟の志を燃やし続ける笹部かもしれない。『大誘拐』~四人で大スペクタクル~■日時:2025年11月7日(金)~8日(土) (全2回)■会場:サンケイホールブリーゼ■出演:中山優馬 柴田理恵 風間杜夫 白石加代子■原作:『大誘拐』天藤真(創元推理文庫刊)■上演台本・演出:笹部博司■ステージング:小野寺修二オフィシャルサイト24
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