KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年10月号
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にそういう書店がないのですから」国内外の戯曲に詳しい笹部を直々に訪ねてくる演劇関係者も増え、笹部は独立を決意する。「古い有名な戯曲などは、それまでも日本で紹介されていましたが、ブロードウェイなどで公演中の最新の戯曲などは、ほとんど日本で紹介されていませんでしたから」独立後、笹部が書籍化した一冊目の戯曲は『審判』。英作家、バリー・コリンズ作の、一人舞台の最高峰と呼ばれる名作だ。「本になる前のゲラの段階で、俳優の江守徹さんが、『私にこの戯曲を公演させてほしい』と言ってきたんです」当時、江守は人気劇団「文学座」で主演を張っていた。だが、『審判』が書籍化されると、「無名塾」の仲代達也など次々と東京の老舗劇団の看板俳優たちが、こぞって、「うち「書店で書籍の仕入れなどを任されるようになったので、海外の戯曲集などを取り寄せて、棚に並べることにしました」当時、東京にさえ、専門的に戯曲集を扱う書店は珍しかったという。笹部は演劇の知識を生かし、戯曲関連の書籍の仕入れに力をいれる。「すると、戯曲の翻訳家や演劇関係者たちが書店に集まってくるようになったんです。他で公演したい」と言ってきた。「戯曲の争奪戦が始まったんです」今、笹部は苦笑しながら語るが、「とても困った事態になりました」と振り返る。〝激しい争奪戦〟が繰り広げられた結果、最初に申し出てきた江守が、文学座公演として『審判』を上演することが決まった。1980年、『審判』は東京の文学座の拠点「アトリエ」で計10日ほど上演された。公演のチケットは即完売となる人気。劇場に入れない演劇ファンの長蛇の列ができる過熱ぶりで、その様子は、「NHKの報道番組〝NC9〟(「ニュースセンター9時」)でも取り上げられるほどでした」と言う。その後も、笹部が手掛ける海外の戯曲の書籍化は、演劇関係者から注目され、次々と有名劇団で舞台化されていく。生粋の演劇青年戯曲に詳しい笹部は、舞台リーディングドラマ『終わった人』2幕より 中井貴一、キムラ緑子 ©山本倫子23

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