戯曲一筋笹部は姫路市で生まれ、地元の中学校から姫路高校へ進学する。「もの心ついたころから読書が好きでした。中でも特に惹かれたのが戯曲だったんです」戯曲に魅了されて以来、国内外の舞台の戯曲を読み漁った。「高校入学後、演劇活動を始めました。脚本に演出、俳優も兼ね、一通りすべてやりました。人数が足りないから、何でもこなさなければならなかったんです」と当時を懐かしそうに振り返った。関西学院大学に進学すると、「すぐに大学の演劇部に入部しました」と言う。演劇にのめり込んだ笹部は、一年で大学を休学し、上京。老舗の劇団四季の舞台スタッフとして働き始める。「しばらく劇団四季の裏方として働きました。一年ほど休学した後、故郷の兵庫へ帰り、大学に復学しました」大学を卒業すると再び上京し、都内の書店に就職した。信〟が垣間見えた。よく、舞台はその場限り一回だけのもの。二度と同じものが演じられることはない―と言われる。その場で、演じる側は一度きりしか演じることができない芝居を、また、見る側は、その場で一度きりしか見ることのできない舞台を目の当たりにする―。それは、まるで演者と観客との一回きりの戦いのようでもある。そう語る舞台人は少なくない。この日、十朱は女優として一人、会場を埋めた大勢の観客の視線を一身に浴び、プレッシャーをはねのけながら戦っていたのではないか…。「今日もいい芝居を見せてもらいました」〝一人舞台〟を戦い切った十朱と、伴奏でサポートする宮川の二人を、笹部は戦友のように頼もしげに、かつ、慈しむように讃えた。この『燃えよ剣』の舞台は十朱と笹部が2013年から〝タッグ〟を組み公演している。盟友はもう一人。舞台上でピアノを演奏し、劇伴の作曲も手掛けた音楽家、宮川彬良だ。舞台が始まったら、もう演出家には出番がない―。そんな笹部の言葉の裏には、舞台に立つ長年の盟友である二人に対し、確固たる信頼関係を築いてきた〝演出家の自リーディングドラマ『終わった人』1幕より 中井貴一、キムラ緑子 ©山本倫子22
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