KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年10月号
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た。しかしわたしは、冬場にも販売に力を入れていた。毎年年末が近づく12月の初めにお得意さんに訪問販売をかけた。「クリスマスお正月用に」と子どもさんが居る家庭に狙いをつけて。年末のボーナスが出た後あたりの日曜日(休業日)に、問屋さんのトラックに200ケース積んできてもらい、営業さんに手伝ってもらってお得意さんを回るのだ。営業さんも自分の成績が上がるので協力してくださった。仲良くしていた西本絋二さん。一人一ケースずつ抱えて、お得意さんの玄関に二ケースを重ねてチャイムを鳴らす。「クリスマス用に買って下さい」と。大の男が二人で頼み込むのだ。するとほぼ買って下さるのである。これは日頃の信用のお陰。二ケースはダメでも「それじゃあ、一ケースだけ」と。一日で200ケースのプラッシーは売り切れたものだった。そして、大抵の家庭で、クリスマスまでに消費してしまい、後日追加注文が入る。わたしも米屋も元気だった時代の懐かしい思い出だ。一緒に回ってくれた営業の西本さんからそのころにプレゼントされた本がある。昔色になってしまっているが、今も大切にしている。井上靖の詩集『北国』。若き日のわたしは、その巻頭の詩「人生」に深い感動を受け詩に興味を持ったのだった。《M博士の「地球の生成といふ書物の頁を開きながら、私は子供に解りよく説明してやる。(略)しかるに人間生活の歴史は僅か五千年、日本民族の歴史は僅か三千年に足らず、人生は五十年といふ。父は生まれて四十年、そしておまへは十三年にみたぬと。わたしは突如語るべき言葉を喪失して口を噤んだ。人生への愛情がかつてない純粋無比の清冽さで襲つてきたからだ。》その西本さんも昨年お亡くなりになってしまった。「甘辛しゃん」さん、いろんなことを思い出させてくださってありがとうございます。■今村欣史(いまむら・きんじ)一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)、随筆集『湯気の向こうから』(私家版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・代表者。「半どんの会」会員。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。(実寸タテ8㎝ × ヨコ19㎝)111

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