KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年10月号
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Q.医学部には精神科医を目指して進まれたのですね。A.そうですね。精神科医というのは、他の診療科以上に、患者さんとのちょっとした雑談を通じて、信頼関係を築いていくことが多いです。私の映画好き・音楽好きの感性がなにか役に立つのではないかなと感じていました。Q.大塚先生がお医者さんになろうと思ったきっかけは?A.子どものころから洋画を観るのが好きでした。ちょうど思春期のころに観た『グッド・ウィル・ハンティング』という映画で、ロビン・ウィリアムズという俳優が演じるキャラクターの雰囲気が好きで、「あんなふうに人の心に関わる仕事ができたらいいなあ」と思っていました。Q.患者さんに接するにあたって心掛けておられることは?A.駆け出しのころは、目の前の患者さんに対して、前のめりなくらいに話を聞いたりアドバイスをしたりと、「自分がよくしてみせる」という気持ちが先行しすぎていたように思います。その初心自体は、患者さんにとっては頼もしく感じられる場合もあるでしょうし、精神科医としては忘れてはならないものではあるのですが、いまは同時に、「目の前の患者さんをもし別の医師に急に引き継ぐことになっても、できるだけスムーズに引き継げるような診かたをしよう」と意識するようになりました。医者である限り、別の先生に患者さんの診療を引き継ぐ可能性は常にあります(実際に自身の海外留学の際にも経験)。私があまりに個性の強い診療をしてしまっていると、引き継ぎ時に後任医師も困りますし、なにより患者さんが動揺して、つらい思いをさせてしまうこともあります。こうした点について意識しながら、ほどよいバランスで診療できるとよいなと思っています。大塚先生にしつもん最大の予測因子となる、というデータが報告されています。睡眠の時間や質は、アプリやデバイスである程度客観的に記録することもできる時代です。お子さんがちゃんとした睡眠をとれているか、気にしてあげることはとても大事といえるでしょう。―神戸大学精神科が中心になって進めておられる「子ども・若者の虐待・抑うつ・自殺ゼロ化社会」プロジェクトとは?前述の自殺者数もそうなのですが、本邦における虐待事例の数も過去最悪の数値を更新し続けている状況です。私たちはこれまでの研究で、強いストレスや自殺リスクを抱えた子どもや若者の血液成分に、老化に似た変化がみられることを見出しました。それらの知見を軸に、より多くのデータを集めて解析し、苛烈なストレスに晒された子どもや若者のこころの危機的状態や回復過程を検知できる指標を確立しようとする試みです。その成果を自殺予防やケアの方法づくりにつなげることまでを目指しています。文部科学省のムーンショットという研究開発支援事業のサポートの下、当科教授の菱本明豊先生がプロジェクトの統括責任者、私が具体的な研究の推進者として、若手の教室員と一緒に取り組んでいます。多くの方に研究にご参加いただいており、有り難い限りで、大変励みになっています。103

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