新人の大友に局長はこう言った。「声なき声を伝えるのが私たちの仕事だ」と。二度の撮影の延期。「その度に脚本を書き直した」と語るので、「最終稿まで何度書き直しましたか」と問うと、苦笑しながら「数え切れないですよ。撮影中も毎日、書き直していましたからね」と教えてくれた。何度も困難に直面しながら、それでもあきらめなかったのは新人時代に胸に刻んだ「声なき声を伝えるのだ」という強い信念だった。「逆風には強いんですよ」。そう不敵な笑みを浮かべるのには理由がある。『るろうに剣心』シリーズの最終章の公開時。コロナ禍のあおりを受け、公開延期に追い込まれた。この辛い時期を振り返りながら「もうどんな逆境にも負けませんよ」と語る。『レジェンド&バタフライ』公開前。主演の木村拓哉と全国の劇場をキャンペーンで回り舞台挨拶に立った。今作も妻夫木聡とともに長期間かけて全国の劇場を回っている。 「〝声なき声〟を劇場の大スクリーンで感じてほしいですから」。それを届けるためなら自分の足でどこへでも駆けつける。筆者はこれまで映画記者として国内外の監督を数多く取材してきたが、映画完成後にこんな地道な行脚を有言実行できる監督はそうはいない。フリーの監督となって、来年、15年の節目を迎える重鎮監督は、逆風に抗いながら〝創作の魂〟をふつふつと燃えたぎらせていた。映画「宝島」監督: 大友啓史原作: 真藤順丈『宝島』(講談社文庫)出演: 妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太配給: 東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会2025年9月19日(金)OSシネマズミント神戸ほか、全国公開!オフィシャルサイト映画「宝島」(9月19日公開)より31
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