の日本人に映画で伝えたかった」。その一心で大友監督が招集したキャスト、スタッフによる一切妥協を許さない撮影は続けられた。声なき声を映像に大友監督は岩手県盛岡市の出身。地元の高校を卒業後、上京し慶應義塾大学へ進学。大学卒業後、NHKに入局する。秋田放送局を振り出しに、ドラマの演出家として頭角を現し、福山雅治が坂本龍馬を演じた大河『龍馬伝』では、ハイビジョン撮影など最新技術を駆使した圧倒的な迫力ある映像でお茶の間を驚かせた。また、生き馬の目を抜く金融世界を描いたドラマ『ハゲタカ』では、前例のない長回しのカットを多用するなどドラマ制作の常識に風穴を開け、革新をもたらし続けてきた。2011年にNHKを退職。フリーの映画監督に転身する。佐藤健が幕末の孤高の侍を演じた『るろうに剣心』シリーズ、木村拓哉が織田信長、その妻、濃姫を綾瀬はるかが演じた話題作『レジェンド&バタフライ』など次々とヒット作を繰り出し、日本映画の可能性を広げてきた。取材の冒頭、安堵の表情を浮かべた―と書いたが、これまで数々の傑作ドラマ、映画を手掛けてきた重鎮監督が自信を漲らせるように、「これまでとは明らかに違う映画が撮れたと思います」と手応えを口にした。いつも冷静かつ温和な監督が、珍しく興奮気味に挑むように続けた言葉に、映像作りにおいて常に限界に挑んできた監督として今作に懸けた強い覚悟が伝わった。「これまでは歴史上の人物たちを描くことが多く、彼ら彼女らは現代人は誰も見たことのない主人公たちでした。フィクションの要素が強かったんです。しかし、今回は私たちの生きる時代とつながっている沖縄の人たちの物語。私たちの知る等身大の人間です。嘘は、ひとつも描くことはできない…と」撮影現場で自らをこう奮い立たせていたという。逆風に負けない創作への熱意「初任地のNHK秋田放送局で局長に言われた、こんな言葉が今も胸に残っています」30
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