トが廻り、舞台によっては映画の移動カメラのように動いてくれます。あの天地の低い舞台空間で、目の錯覚を利用して、一階だと思っていた建物が二階になったり、またその反対に、建物が地面の底、つまり奈落に沈んでいくこともあります。歌舞伎の舞台は、実にスペクタクルで、まるで客がジェットコースターに乗っているような、時には映画以上の迫力を演出してくれます。写真や動画の時代に、歌舞伎の舞台背景は、流れてくる滝や川もすべて、描き割りという絵で表現されています。巨大なパノラマ画を見ているようです。建物の装置と同じように、松や竹や梅も立体的な切り絵になっています。かと思うと、本物の植物も描き割りの絵とひとつになっています。まさにアバンギャルドです。アバンギャルドで思い出しましたが、僕は、歌舞伎を見ている自分が、日本人ではなく西洋人の目と感性で見ていることに、ある時、気づきました。今、『国宝』という映画が大変当たっていて、この映画の影響で新しい歌舞伎ファンが増えたと聞きます。「歌舞伎はこう観るべきだ」という従来の古い歌舞伎ファンの固定した見方を超えて、本来の歌舞伎観賞からいえばタブーかもしれませんが、歌舞伎の多様性には多様な見方があるということを知っていただければと思います。歌舞伎を観たことのない方は、ぜひ一度、劇場に足を運んでください。横尾忠則現代美術館美術家 横尾 忠則1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など世界各国で個展を開催。旭日小綬章、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞、東京都名誉都民顕彰、日本芸術院会員。著書に小説『ぶるうらんど』(泉鏡花文学賞)、『言葉を離れる』(講談社エッセイ賞)、小説『原郷の森』ほか多数。2023年文化功労者に選ばれる。平成中村座(2011)© Tadanori Yokoo横尾忠則現代美術館では、9月13日(土)より『復活!横尾忠則の髑髏まつり』が始まります!23
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