KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年9月号
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原型の形が反転した石膏が残ります。その石膏が作品になります。つまり人物や動物等が存在する空間が凹み、空洞になるのです。レリーフですので、鑑賞者は作品を鑑賞する際に、あちらこちらと移動しながら眺めることになります。そうすると、私たちの視点の移動に伴い、人物や動物等の見た目にわずかなゆらぎが生じます。そのゆらぎが驚くほどの立体的な効果を与えるのです。それゆえ、中谷の作品は見る人を一瞬混乱させます。鑑賞者は不在の中にかたちが存在する不思議さに引き込まれ、視覚では捉えきれないものがあるということを知ることになるのです。今回、中谷は、横幅10メートルを超える新作を発表しま2025コレクション展Ⅰ小企画 美術の中のかたち─手で見る造形中谷ミチコ 影、魚をねかしつけるけんびの『美』連載vol.9現在開催中の「2025コレクション展I」。6月号と7月号と2号連続で、その見どころを紹介してきました。今回は、その会期中の9月5日(金)から1階の常設展示室5で始まる「美術の中のかたち─手で見る造形」展を紹介します。「美術の中のかたち─手で見る造形」は、前身の兵庫県立近代美術館時代の1989年から継続して開催してきた当館の名物展覧会です。作品に触れて鑑賞できる本シリーズは、視覚に障がいのある方に作品をより楽しんでいただくことと、視覚に依るだけにとどまらない美術鑑賞のあり方を再考することを目的にしています。35回目となる今回は、「中谷ミチコ 影、魚をねかしつける」と題して、彫刻家・中谷ミチコの作品を紹介します。中谷は、多摩美術大学美術学部彫刻学科を卒業後、ドイツに留学。2014年に帰国した後は、祖父が住んでいた三重県津市にアトリエを構えて活動しています。現在、多摩美術大学美術学部彫刻学科の准教授を務め、後進の育成にも当たっています。中谷は、凹凸が反転したユニークなレリーフ状の作品で知られています。凹凸が反転した作品?それはいったいどのようなものなのか、不思議に思われた方もいらっしゃるでしょう。制作方法は次のとおりです。まず立体の原型を粘土で成形し、それを石膏取りします。石膏が固まった後、粘土を取り除くと、14

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