ベトナム人向け留学斡旋のクレーム事件ベトナム人経営のベトナム人向けの「留学斡旋センター」が本件の当事者である。センターの虚偽の情報提供によって大学進学の貴重な時間を無駄にした保護者と子どもの怒りと痛恨は共感できる。現在「半額返済」をセンターは提案しているが、その受領よりも、二次被害の防止を保護者は強調している。保護者のFB上の主張は次のようである。「保護者・生徒・学生の皆さんに、信用できない留学センターを選ぶことの潜在的な危険性を警告するために私は訴えます。」「皆さん、このセンターに二度と誰も騙されないよう、ぜひシェアしてください。大きなセンターなのに、やり方が汚い。」「失われたチャンス、失われた夢は戻らない。大金(日本円で50万円相当)を失っただけでなく、高校卒業の子どもは留学の機会と夢を奪われました。重要な1年を棒に振り、その時間は二度と戻りません。」消費者トラブル・クレーム事件のベトナム事例事件の経緯昨年に高校卒業した子どもは中国・上海で英語で学べるファッションデザイン専攻を希望しており、親の親しい友人の紹介の留学斡旋センターに相談した。彼らは「中国政府の全額奨学金が確実に取れる」「合格保証」「手続きは迅速」「入学後も全面サポートする」など完璧な将来像を約束した。しかしセンターに入金後に対応が一変。「上海に英語でファッションデザインを教える大学はない」と告げ、中国語での受講に切り替えるよう要求。さらに中国語検定HSK4取得を強制し、出願時期も3月から1月に前倒し。わずか3か月で検定合格は無理。別の方法を相談しても、彼らからのサポートはなかった。このような理不尽な変更を受けて本年5月に契約書類の撤回と返金を求めた。しかし「留学する気になったら契約を再開できる。もしくは他の留学希望者を紹介すればその人に差し替え可能」。結局、返金は拒否。謝罪もなければ、唯一提示されたのは、根拠のない「半額返金」だけ。その後のメールも返金約束か沈黙のみ。教訓と含意(1)ベトナムには「消費生活センター」など苦情対応の公的機関が浸透しておらず、消費者は当事者と直接に対峙しなければならない。弁護士依頼もできるが費用負担が大きい。その場合、賛同や主張をFBで一般に訴える手段がある。(2)保護者のFBには証拠となる書類も添付されている。このような証拠保全は消費者がクレームする場合の世界共通の必要条件である。(3)この子どもの興味が小学生の時からデザインやファンションであった。留学の希望先が最初は東京、次にソウル、そして上海と変遷した。ベトナム人の若者から見てファッションと言えば、今や上海である。神戸の巻き返しは可能か?(4)中国は奨学金などで外国人受け入れに積極的。しかし中国語の能力も必要。日本についても日本語学校が文科省の認定制度に変わり、日本語の学習体制が整備中。文化の伝承や理解に言語は不可欠である。■上田義朗(うえだ よしあき)流通科学大学名誉教授日本ベトナム経済交流センター日本代表外国人材雇用適性化推進協会(ASEO)代表理事日本語教育機関未来創造推進協会(JLEFA)代表合同会社TET代表社員・CEO躍動するアジアベトナム元気ベトナムの経済成長率は昨年度に7%に達したが、国際機関の今年度の予測は6%台。その主な理由は、7月からの中央省庁の再編と地方行政組織(省や市)の統合、さらに8月からの「トランプ関税」の影響と考えられる。新たな制度・経済環境の動向を見定めるために民間企業は新規の投資や雇用を控えている。こういう時期に詐欺や消費者トラブルやクレーム事件の発生は世界共通である。その事例を今回は簡単に紹介してみる。文・ 上田義朗X第21回ハノイのゴックカン湖畔(記事とは無関係)前掲写真と同じ127
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