KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年8月号
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―外科手術中に病理診断科で診断することもあるのですか。いろいろな臓器へアプローチ技術が進歩して、多くのケースで術前の病理診断が可能にはなりました。例えば膵臓では、癌なのか他の紛らわしい疾患なのかが術後に判明することもありましたが、EUS‐TA(超音波内視鏡下組織採取術)で検体を取り出し術前の病理診断が可能になりました。ただ、術中診断は依然として重要です。例えば、膠芽腫かリンパ腫かによって治療法が全く変わってくる脳の場合は開頭手術中の病理診断が非常に重要です。術中確定診断が膠芽腫だった場合は切除手術を進めますが、診断がリンパ腫だった場合は開頭手術を中止して、抗がん剤や放射線などによる内科的治療に切り替えます。その他、リンパ節転移の有無や腫瘍が取り切れているかの判断など、病理医も大車輪で働いています。―病理診断の中でも伊藤先生のご専門のリンパ腫とは?病理が確定診断に重要な働きをするのがリンパ腫です。リンパ節だけでなく、その他の臓器や血管の中、胸腔、脳などさまざまな場所でリンパ球が腫瘍化します。リンパ腫にも様々な種類があり、免疫組織化学を用いていろいろなマーカーの組み合わせを観察してどの抗原に対する抗体が陽性になるかを見つけ、どの種類のリンパ腫なのかを確定診断します。―先生方はそれぞれ専門分野を持っておられるのですか。神大病院の病理診断科には呼吸器、腎臓、肝臓、内分泌、婦人科など専門領域を持った病理医がいます。皆で相談しながら診断をして幅広く対応できる態勢が整っているのは、病理医にとっても患者さんにとっても良い環境だと思います。―病理の先生方は確定診断を持ってカンファレンスに参加し治療方針を決めるのですか?レポートにアドバイスを記入することはありますが、患者さんの年齢や意向などいろいろなファクターを考慮しながら最終的に治療方針を決めるのは臨床の先生方です。病理の役割は診断の決定までですから、それ以上踏み込むことはありません。―病理解剖というのも病理医の役割のひとつですか。事件性のある場合の法医解剖とは違って、病気で亡くなられた方のご遺体をくまなく調べて全貌を解明する病理解剖は病理医の大きな役割のひとつです。これによって生前にわからなかった病気が見つかることは多くあり、非常に重要なものです。最終的に臨床と一緒にCPC(クリニコ パソロジカル カンファレンス)を行い、診断を確定します。ところがコロナ禍以降、病理解剖の件数は激減し、なかなか戻ってこないのが現状です。医学の進歩の妨げになるのではないかと危惧するところです。88

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