KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年8月号
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れは、速度です。この速度は、それぞれの粒子の生まれ方が関わってくるのですが、簡単に言ってしまうと、ニュートリノは速く、ニュートラリーノとアクシオンは遅いのです。ニュートリノが光の速さと同じくらいの速度を持つのに対して、ニュートラリーノとアクシオンはそれに比べればほとんど止まっているようなものです。速い暗黒物質を「Hot Dark Matter(熱い暗黒物質、HDM)」、遅い暗黒物質を「Cold Dark Matter(冷たい暗黒物質。CDM)」と言います。この速度がなぜ重要かというと、それぞれが宇宙に及ぼした影響の範囲が大きく異なるからです。つまり、速い粒子は同じ時間で遠くまで移動できるので、広い範囲、言い換えれば、宇宙の大きな構造にまで影響を与えます。大きな構造とは、銀河よりもっと大きな構造です。いっぽうで遅い粒子は近くのものにしか影響を与えません。遠くまで行くのに時間がかかるからです。このように、宇宙の構造に対する影響が異なるために、熱い暗黒物質がどれだけあって、冷たい暗黒物質がどれだけあって、という仮定をすると、宇宙がどのように成長していくのか、そのシミュレイションができます。そのシミュレイションの結果を、現実のこの宇宙の姿と比較することで、その仮定した量が妥当かを判断できます。そのシミュレイションは、すでにいくつも行われてきています。その結果言えることは、熱い暗黒物質はほとんどなく、冷たい暗黒物質が主たるものであるほうが、現実の宇宙の姿に合っている、ということです。ニュートリノであれば、謎が多くてもすでに発見され、存在していることは事実なのですが、残念なことに、暗黒物質の候補としては、それ以外の、「発見すらされていない、あるかどうかもわからない」粒子のほうが、残ってしまったのです。では、その残った候補、ニュートラリーノとアクシオンがそれぞれどんなものなのか、次回くわしく見ていきましょう。PROFILE多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。42

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