と手を振る姿に大きな歓声が沸き起こった。私は新聞記者時代、映画『関ケ原』の公開前に岳大を取材した。彼は名優の両親を持つ二世俳優として育った故の葛藤などを包み隠さず打ち明けてくれた。その話をすると、佐久間は「そんな話をしていましたか…」と感慨深げに語り、こんな秘話を教えてくれた。「サッカーが得意で試合でゴールを決めても自分は誉められない。親が有名俳優だと言われる。岳大はそんな周囲の視線を嫌がって育ちました。そして高校を卒業すると一人、日本を離れアメリカへ渡ったのです」数学が得意だった岳大は医師を目指して米国の大学へ留学。その後、数学科を専攻し大学院にまで進んでいる。「それが突然、俳優になりたいと言い始めましてね…」佐久間は反対したが、岳大は俳優の道を選んだ。映画『関ケ原』の取材時、岳大はこう打ち明けた。「父(平幹二郎)を看取った翌日が、『関ケ原』の冒頭のシーンの撮影日だったんですよ」。そしてこう続けた。「父にこの映画を見てほしかったです」と。名優である両親に反対されながらも、自ら俳優の道を切り開き、米国で見事その才を開花させた。誰もが立つことのできないエミー賞の授賞式の舞台。その会場に母を日本から呼び寄せた岳大の思いが痛いほど分かる気がした。公演時には約700人が入るルナ・ホールを前にして佐久間は言う。「舞台の上から発したセリフは観客席のどこまでも届くように心がけています。大きな声を張り上げずとも、自然な声で」それは、たとえ、どんなに広い大ホールでも変わらない…とも。ホールの楽屋で、秋の公演を想像しながら、思いの丈を込めて情感豊かに語る佐久間の姿に、昭和から平成、令和の時代を駆け抜けてきた女優の矜持を目の当たりにした。『INNOVATION OPERA ~ストゥーパ~新卒塔婆小町~』より『佐久間良子 《音と言葉で紡ぐ 心の四季》西本智実 芸術監督 指揮』公演■2025年10月4日(土)開演14時ルネサンスクラシックス芦屋ルナ・ホール■お問い合わせ大阪アーティスト協会:06-6135-0503(平日10時~18時)公演オフィシャルサイト26
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