KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年8月号
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家の壁がむき出しになっていたのです。仕方がないので写真でも撮ろうと思って、昔あったインスタントカメラで撮りました。カメラに内蔵されたフラッシュがパッと光って、家の白い壁がまるで幽霊のように浮き出しました。翌日、現像して紙焼きになった写真を見て、僕は驚きました。なんて奇珍な風景だろう?と思って。そこには、2本に分かれた道のど真ん中に、真っ白な家の壁が写っていました。その場所は別に不思議でも何でもない場所ですが、夜の闇の中に白く浮き出した建物の左右の道が、遠くへ吸収されていて、何とも神た。Y字路は元々、農道が発展したもので、田舎では特別珍しいものではありません。僕が初めてY字路を認識したのは、郷里の西脇市に行った時、小学校への坂道が2つに分かれているその真ん中に、小さい模型屋がありました。いつも学校の帰り道にこの模型屋に立ち寄るのが習慣になっていたので、久しぶりに顔を出そうと思って、郷里の知人と夜、そこを訪れました。町はガランとして人通りもなく、まるでゴーストタウンのように静まりかえっていました。ところが、つい数ヶ月前まであったその模型屋がなくなっていて、元あった店の真後ろの最近、「僕のY字路Painting」と「僕とY字路Photograph」という画集と写真集の2冊を出しました。今までの大きい画集と違って、単行本サイズの画集と写真集が、思いもよらず人気があって喜んでいます。「一体、Y字路ってなんだ?」と思われる人も多いとは思いますが、Y字路とは1本の道が左右二つにY字型に分かれた道のことで、一般的には、三叉路とか岐路と呼ばれています。昔は「追分け」と呼んで、時代劇などでは馴染みの場所です。今から25年ほど前に、僕はY字路の存在を発見しましTadanori Yokoo美術家横尾 忠則撮影:横浪 修神戸で始まって 神戸で終る 「Y字路」誕生25周年におもう横尾忠則とY字路18

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