近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトを学ぶ平尾工務店がお届けする「オーガニックハウス」の基本的な理念や意匠を編み出した世界的建築家、フランク・ロイド・ライトについて、キーワードごとに綴っていきます。ライトペディアWrightpediaChapter 15(最終回)最終回の今回は、一国の首相を惑わせるほどフランク・ロイド・ライトの影響が大きかったという逸話をご紹介しましょう。現在の首相官邸は2002年の完成ですが、その前に使用されていた旧官邸は移動・改修され、現在は首相公邸=総理の住居になっています。さて、この旧官邸で1985年に開催された国際新聞発行大会のレセプションで、当時の中曽根康弘総理がこんなスピーチをおこなっています。「この首相官邸は有名なライトの設計なんですね」これは中曽根総理の思い違いで、旧官邸はライトの作品ではありません。でも、間違えてしまうのもやむを得ません。と言うのも、例えばスクラッチタイルとテラコッタを組み合わせた内装、ステンドグラスなど随所にあしらわれた幾何学模様、一定のパターンの連続など、旧官邸はライトの名作、帝国ホテルにそっくりだからです。しかし、まるごと真似をしている訳ではありません。例えばフクロウやカエルをモチーフとした意匠や、ホールのアーチ状の屋根と天井近くに展開する窓など、ライトとは違ったテイストも見せてくれます。旧官邸は1929年竣工、設計は大蔵省の技師、下元連むらじ(1888~1984)で、ライトの高弟、遠藤新とは東京帝国大学建築科でともに学ぶ仲でした。ライトの哲学について遠藤から直接聞いた下元は、「建物は地形に即して建てる」という巨匠の考えに共鳴したと語っています。旧官邸に短めの階段が多いのはそのためで、ゆえに流れるように連続する空間構成となり、この点もライト建築に似ている理由なのかもしれません。実は、ライト自身も首相官邸をプランニングしていたとか。 旧首相官邸(首相公邸) 120
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