2009年10月17日、東京国際映画祭初日。『アバター』の特別映像が日本で初お披露目された。「当時、『アバター』は画期的な最新技術を駆使した3D大作として、製作途中からすでに話題になっていました。それが肝心の日本初上映のときに…」上映後、すぐのことだった。「突然、スクリーンの映像が消え、劇場が真っ暗になってしまったんです」プレミア上映のため、当時の首相など多くの来賓も会場を訪れていた。「圧倒的な3D映像のデータを処理しきれずに映写の機材が不具合を起こして止まってしまったんです。何とか復旧でき、事なきを得ましたが、とんでもないことになってしまったと思いました」と苦笑しながら振り返る。こんなトラブルを経ながら、『アバター』を興収156億円という大ヒット作につなげたのだ。心躍らせる新作は尽きないまた、2018年のヒット作『ボヘミアン・ラプソディ』にまつわるこんな秘話も…。「製作中のラフ編集版を観た時にこう思いました。正直、ヒットは難しいかな…と」後の空前のヒット作と初遭遇したプロのヒットメーカーが、こんな意外な感想を持ったというのだ。その理由は、「まだCG処理が不完全な状態のままで映像を観せられたこと」にあった。7万人を超える観客で埋め尽くされたスタジアム・コンサートでの伝説的なシーンの映像は感動的だった…。だが、佐藤GMは言う。「私が初めて試写で見た映像とは、まったく違いました。写っていたのは駐車場のような場所で観客はわずか10人ぐらいしかいない映像でしたからね」と明かし、苦笑した。取材中、佐藤GMが何度も強調した、「映画のヒットのための重要な要素は音楽」という言葉を証明するように、完成版の『ボヘミアン・ラプソディ』でのコンサートシーンの迫力あふれるCG、そして臨場感豊かな音楽は公開ぎりぎりまで作り込まれていたのだ。また、「『クイーン』のコアなファン層は年代が高く、当初は観客動員を心配したのですが、50、60代の世代から口コミで徐々に若い年齢層へと広がりヒットにつながったのです。これは予想できなかったことですね」と振り返った。近年、ネット配信の普及などで映画を鑑賞する形態は多様化し、劇場で大勢の観客と一緒に観るのが映画…という概念は年々、薄れつつある。しかし、佐藤GMはこの状況を否定的にはとらえていなかった。「一人でPCやスマホの画面などで配信映像を観たり、家族や知人が集まって鑑賞するホーム・シアターなど、それぞれ補完しあえる映画の鑑賞スタイルが増えるのは、むしろ映画にとって望ましいことだと思います」と話す。30
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