なると、次に考えられるのは、「恒星になれなかったもの」です。太陽をはじめとする恒星は、宇宙に漂う物質が互いの重力で集まり、その量があまりにも多い、つまり質量が大きいために、それによって中心方向に押し潰されて、遂には原子核同士がくっつく、核融合まで起こすようになったものです。しかしその集まり方、あるいは集まった質量が中途半端であれば、核融合までは起こさない塊になることだってあります。核融合を起こさなければ、光り輝かないので、われわれの地球からは(可視光では)観測できません。たとえば惑星もすべてそうです。太陽系内の惑星が地球から観測できているのは、とても近いために、太陽からの光が反射したものが地球に届くからです。しかし銀河全体の大きさで言うと、とてつもない広さですので、地球からは観測できないもののほうがはるかに多くなります。こういった、天体ではあるものの、光り輝いていないために可視光では観測できないものがハローにはたくさんあって、それが右のような現象を引き起こしているのではないか、とも考えられます。こういった天体を、「質量を持つ小型のハローの天体(MAssive Compact Halo Object、MACHO)」と呼びます。MACHOの候補にはいくつかあります。右のような、太陽ほどには重くないために恒星にはなれなかった褐色矮星、惑星、あるいはブラックホールや中性子星などの「恒星の死骸」、などなどです。これらの天体は、可視光では観測できなくとも、質量があることから、それを使って観測することが可能です。第18回で、質量のあるものは、その重力によって空間を歪ませる、という話をしました。空間が歪むと、そこを通る光の経路が曲がってしまうので、歪んだ空間の向こう側の「風景」が歪んで見えます。蜃気楼のように。これを「重力レンズ効果」と呼びます。この歪みを測定することで、MACHOの質量を計算することができます。そうしてMACHOを調べていったところ、確かにたくさんあることはわかったのですが、銀河の回転速度の問題を説明するにはまったく足りないことがわかりました。つまり、ハローの中には、「天体以外の何か」も存在しているのです。それは、重力レンズ効果では観測できないことから、天体のように固まっているのではなく、薄く、ハロー全体に広がっていることになります。果たしてその正体とは何でしょうか。PROFILE多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。58
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