KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年6月号
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鑑賞中、ずっと泣いていました」と照れくさそうに話した。舞台はバンコク。中国系タイ人の青年、エム(ビルキン)は母との二人暮らし。従妹のムイが祖父の遺言で豪邸を相続した話を知ったエムは、がんを患う一人暮らしの祖母、メンジュ(ウサー)の介護人を申し出る。遺言で遺産を得ようと目論んでいたエムだったが、一緒に暮らすうちに、祖母との絆は親戚の誰よりも深まっていく…。「当初、渡された脚本を読んで不安でした。私の出演場面は多く、セリフも膨大でしたから覚えられるか、とても心配で…」そう明かすのも無理はない。ウサーにとって長編映画の出演は初めてだった。「セリフをすべて書き写しながら、目と手に焼き付けることにしました」と彼女は言う。「役作り?私が長編で演じるのは初めてですからね。演じるのではなく、私はメンジュに成りきろう。そう決意しました」タイを代表するスターであるビルキンにとっても映画は初主演だった。「ビルキンはとても優しく、私をいたわってくれ、本当の孫のようでしたよ」彼は現場で戸惑うウサーに「おばあちゃん、頑張れ」と、孫として寄り添っていたという。プレッシャーを乗り越えながらの二人の熱演は胸に迫る。この演技を超えた二人の強い絆、互いを思いやる感情が、スクリーンからあふれ出る。今作の空前の大ヒットにより二人は一躍、タイのトップスターに上り詰める。そして、その人気は世界へと広がり始めている。「まさか、私が〝国民のおばあちゃん〟と呼ばれる日が来るなんて想像もできませんでしたよ。一緒にこの素晴らしい映画を作り上げた、監督や共演者、スタッフ。みんなのおかげです。本当に感謝しています」と語る。■第二の人生の幕開け「もうすぐ初のひ孫が生まれてくるんですよ」とうれしそうに話すウサーは1946年生まれで、現在79歳。3人の娘と4人の孫に恵まれた〝おばあちゃん〟だ。「ずっと主婦として暮らしていましたが、子育てが終わった後、何か新しいことを始めたかった。そこでタイダンスの教室に通うことにしたんです」と話す。10年ほど前にタイ伝統のタイダンスの教室に通い始める。撮影協力:リーガロイヤルホテル大阪32

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