クにはそれほどないことがわかります。となると、銀河の回転速度は、太陽系と同じく、中心に近いほど速く、遠いほど遅くなる││と、思うでしょう?これが、まったく違っていたのです。そのことに最初に気づいたのは、米国の天文学者ヴェラ=クーパー=ルービンでした。彼女に先立つ数十年前、スイスの天文学者フリッツ=ツヴィッキイもおかしな現象を発見していました。彼は、銀河自体の回転速度ではなくて、銀河同士が互いに重力を及ぼし合って運動するときの速度が、やはり運動の法則から導き出される速度と合っていないことに気づきました。これらの観測から考えられることは二つあります。まずは、運動の法則が、銀河のような巨大な規模では成り立っていないこと。しかし、太陽系で成り立っているものがその上の階層で成り立たなくなることは考えにくいのです。物理法則というものはあらゆる階層で成り立つはずで、そうでなければ重力という考え方そのものが間違っていることになります。ルービンも、ツヴィッキイも、それ以外の物理学者や天文学者も、そうは考えませんでした。そこでもうひとつの考えに辿り着きます。右で「質量」として計算したのは、あくまでも光輝く恒星の質量だけです。もし「光輝かない」物体があったとしたら、それは地球からは観測できないので、その分の質量は計上できていません。たとえば惑星がそうです。なんだ、解決か││と、思うでしょう?これが少しぐらいなら驚かないのですが、なんと、その「光輝かない」分の質量は、光輝く恒星より桁違いに多かったのです!ツヴィッキイは、これを「missing mass(失われた質量)」と呼びました。これこそが、前回までのビッグバンの話で最後に残った謎の「なにか」、そして今回からのお話しの主役なのです。PROFILE多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。66
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