も助け合えるかな…」この20年間で踏んできた場数、培った経験は半端ではない。そんな覚悟のうえでの余裕の笑みを浮かべた。「宇宙用語を口にする機会なんて滅多にないから、たくさん話したい」ビジュアル撮影の際にそう上田に伝えると、脚本の中に書かれる専門用語のセリフが膨大な量になったという。上田から航海士役に抜擢され、「何で僕が?」と、その理由を尋ねてみた。「あまり具体的な理由は答えてくれませんが、僕のこれまでの出演作品を見て選んでくれたようです」どんな役にも挑みたい2008年、黒沢清監督がメガホンを執り東京都内で暮らす一家を描いた『トウキョウソナタ』。その次男役を演じ、12歳で、映画誌『キネマ旬報』の新人男優賞に選ばれ、一躍注目された。まだ、小学生だったが、撮影時、共演者たちから「大学は出ておいた方がいいよ」とアドバイスされ、忙しい俳優業と学業との両立を決意し、日本大学芸術学部で学んだ。「芸能コースのある中学で学んだら」。こうアドバイスしてくれたのは俳優仲間の神木隆之介で、同じ中学校への進学を決めている。共演者はもちろん、舞台やドラマの演出家、映画監督から絶大な信頼を寄せられ、演技力を磨いてきた。昨年、舞台デビュー20年の節目に初めて二人芝居にも挑んだ。「公演中、舞台上と観客席の間には境がありますが、公演が終わったカーテンコールのとき、この境目がなくなり、舞台と観客席がひとつになるんです。この瞬間がたまらない魅力です」舞台には何物にも代えがたい、こんな独特の魅力があると言い、映画やドラマに引っ張りだこだが、「1年に1本は舞台に出続けたい」とも。大学時代に監督、脚本、出演した自主製作の短編作品はカンヌ映画祭にも出品された。現在、ファッション誌で世界の映画監督との対談の連載企画を持ち、「ダルデンヌ兄弟(仏)や、イ・チャンドン監督(韓国)、先日はジャック・オールディアール監督(仏)と対談してきました」とうれしそうに話す。2021年には、アルチュール・アラリ監督(仏)に抜擢され、映画『ONODA 一万夜を越えて』に出演。戦後29年間、フィリピンのルバング島に残り〝戦い続けた〟日本陸軍兵、小野田寛郎と行動を共にした若き陸軍兵を演じた。このときの撮影秘話を教えてくれた。「(撮影地の)カンボジアで、あばら骨がみえるぐらい減量したのですが、監督から、そこまで減量しなくていいと言われて…。そのままでは撮れないと、ランニングシャツを着せられました」と苦笑しながら振り返った。役作りに懸ける日本俳優の情熱、真摯さに、アラリ監督は驚きと敬意を表したという。30
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