を心配し、何かと世話を焼いてくれる元夫の弟、颯斗。ひかりのパート先の同僚やひかりが通う保育園の保護者たち…。初めての子育てに困惑しながら、さらに母との関係に悩みながらも、必死に生きる美空の日常の日々が淡々と綴られる。「これまでの小説もそうですが、私の小説では、とくに大きな事件などは起きません。今回も…」と本人はさらりと話すが、何気ない日常こそがドラマチックに日々展開し、驚きや喜び、哀しみに満ち溢れた瞬間の連続なのだ、と読み進めながら改めて気づかされる。それこそが、多くの読者を魅了してやまない瀬尾作品の大きな魅力なのだと。創作への覚悟新作の物語の着想、構想はどうやって生まれたのだろうか?「数年前、編集者から〝次は瀬尾さんと娘さんとの物語を読んでみたい〟と言われたのが、この小説を書くきっかけになりました」11年前に長女を出産。子育てに奔走する姿を間近で見ていた編集者からのアドバイスだった。昨年初旬、書き下ろしとなる長編小説『ありか』の執筆にとりかかった。「もちろん小説なので、フィクションですが」と前置きしたうえで、「小学5年生になった長女との生活が、この小説の大きなテーマになっています」と明かす。ひかりは保育園の年長組でもうすぐ小学1年生になる6歳。瀬尾自身が初めて母となって得たもの、子育てで経験した〝奮闘の数々〟が小説のなかに散りばめられている。「これまでの私の人生を全部込めたと言い切れる小説を書きました」〝現時点の集大成〟と語る長編原稿を昨年秋に完成させ、脱稿した。「喜びも哀しみも、私のすべてはここにある…」《どこか母が怖くて、捨てられたくなくて、嫌われたくなくて苦しかった。好かれたい。そう思う一方で、否定的な言葉を浴びせられるのがつらくて、早く大人になって母から逃げたかった》22
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