ず、僕の眼前に並べられた作品は、絵に描いたような観念そのものです。選択された作品はどれもが「肉体派宣言」を自らが裏切った作品ばかりです。これが現状の学芸員かと、僕は怒りを越えて悲しくなってしまいました。「肉体」といえばそこに肉体が描かれたものという、全く子どもじみたというか、素人の域を出ないキュレーションに、僕は唖然とするしかなかったのです。僕が常日頃から学芸員に伝えていることは、作品それ自体が肉体的存在である昔の小説の挿絵となんら変わりません。書かれた文章に忠実に写実的に描いた、なんの想像力もない、面白くもおかしくもない挿絵のような作品の選択に、学芸員は一体、肉体のなんたるかを理解しているのだろうか、そんなこともわからずにこの企画を立てたのか、ということに僕は呆れ返ってしまいました。つまり頭で思考した「肉体」です。僕は常に口が酸っぱくなるほど、頭の思考を停止して、肉体で感知するように、長い間、言い続けてきたはずです。にも関わら今月始まる横尾忠則現代美術館の展覧会テーマは『横尾忠則肉体派宣言』です。絵画における「肉体」は、僕にとって最も重要なテーマです。だから企画の話を聞いて、大変楽しみにしていました。そして早速、展覧会プランと展示作品のセレクションが送られてきました。選択された作品のほぼ全作が肉体を描いた絵ばかりで、僕は愕然としました。「肉体派宣言」と言った以上、確かに肉体そのものが描かれていることには間違いないのですが、これでは、Tadanori Yokoo美術家横尾 忠則撮影:横浪 修神戸で始まって 神戸で終る 横尾忠則の肉体派宣言展~「事なかれ主義」に支配される悲劇~16
元のページ ../index.html#16