KOBECCO(月刊神戸っ子2025年5月号)
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松元悠《蛇口泥棒(長浜市、東近江市、砺波市)》リトグラフ・BFK紙、2022年も言えます。夢とは、目を背けてしまいたくなる現実と折り合いをつけるためのひとつの方法とも言えるのかもしれません。多くの場合で6、7版ほど重ねられるという、松元が手がける多色版のリトグラフは、作家、事件の当事者の方々、現実、夢といった、様々に異なるレイヤーの重ね合わせかのようです。実物の版画を見てみると、緻密に構成された版同士のずれとかすれが見えてきます。松元が見た事件の風景と、当事者の方々が見た風景は、当たり前のことですが、完全に一致することは決してありません。しかしそれがゆえに、その重なりを少しでも描きとろうと試行錯誤する松元の姿勢には、凄惨な事件や苛烈な報道が拡散する現代での、自らが当事者にはなりえない事件に対するひとつの向き合い方を教えてくれるような気がします。松元が実際の現実を咀嚼しながら生まれた作品を、松元がみた事件の様相を伝える資料とともに、ぜひ会場でご鑑賞ください。(学芸員・武澤里映)■神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1■TEL.078-262-1011■休館日:月曜(祝日・振休の場合は翌日)■開館時間:10:00-18:00(展示室への入室は17:30まで)兵庫県立美術館HYOGOPREFECTURALMUSEUMOFART注目作家紹介プログラムチャンネル16 松元悠 夢兵庫県立美術館ギャラリー棟1階 アトリエ1■4月18日(金)~5月25日(日) 観覧料無料松元悠《最期の日(上新庄駅前通り)》リトグラフ・かきた紙、2018年13

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