KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年4月号
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伝いをしてくれたりした。青春ドラマそのままの周囲の善意が、どれほど私を支えてくれたかわからない。》とある。吉田さんのサイン色紙がある。吉田さんから直接に戴いたものではない。「喫茶・輪」のお客さんには野球関係者も多く、そのうちのどなたかがもらってきてくださったのだろう。中央上部に「徹」という字が控えめな大きさで書かれていて、「阪神タイガース 吉田義男」と誰でも読める文字で添えられている。『海を渡った牛若丸』(1994年・ベースボール・マガジン社)にはこんなことが書かれていた。《プロ野球選手のサインは、読めないような字を書くのがふつうなのに、吉田さんは、きっちりとした書体で書く。そこに彼の律義さを見る。》そう、うちにある新庄剛志、松井秀喜、中西清起など、野球選手のサインはみな読めない。添えられている背番号で判るようになっているのだ。そしてそして、この本には驚くことが書かれていた。 竜安寺大珠院住職、花園大学学長(当時)の盛永宗興老師の序文の中に、《しかし、私は「監督就任した頃に言った“徹”(ひたむきに進む)をいまこそ実行すべきなんだ」とアドバイスした。》そうか、そうだったのか!だった。わたしは色紙の「徹」の字を深く考えることなく見ていた。しかし吉田さんにとっては重く深く、そして大切な言葉だったのだ。■今村欣史(いまむら・きんじ)一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)、随筆集『湯気の向こうから』(私家版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会員。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。(実寸タテ18㎝ × ヨコ7㎝)87

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