KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年4月号
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自然があふれていたことはありがたいことでした。幼いころ、駆かけずりまわった山川や野原、夢中になった昆虫採集は、忘れられない懐なつかしさと輝きを、ぼくの心と体の奥深くに植えつけてくれたのです。ぼくのペンネームの「治おさむ虫」も甲こうちゅう虫のオサムシになぞられたものです》第二次世界大戦前後の神戸を舞台にしたマンガ『アドルフに告ぐ』もドイツからの移民が主人公。これも神戸での実体験が物語の着想の原点になっているのだと想像できる。未来へのメッセージ同書のなかに、こんな興味深い一文が記されている。タイトルは『宇宙からの眼まなざ差しを持て』。《独断と偏見に満ちた未来予測をひとつ述べてみましょう》こう宣言した後、《日本人は、来世紀には平均寿命が九十歳を越え、八十歳までは働くようになり、また働かざる「父は想像力がとても豊かな人でした。描いたマンガやアニメはこの想像力から生まれたもの。幼いころに過ごした宝塚、神戸で見たり、体験したりしてきたことが、父の創作の原点になっていることがよく分かります」同書のなかにこんな一文がある。タイトルは「自然がぼくにマンガを描かせた」。《ぼくは宝たからづか塚という町で育ちました》と始まり、こう続く。《いまから思うと、まわりに行われたナチスによる大量虐殺からユダヤ人を救おうと、約6000人を日本へ移住させている。神戸へも多くのユダヤ人が身を寄せたが、その家族たちを祖父が撮影していたのだ。手塚名誉館長は、こう想像している。「なぜ父は『アトム大使』で宇宙移民を描いたのか?父は神戸でユダヤ人家族たちと出会ったことで移民問題に興味を覚えた。それが、後に『アトム大使』の構想へとつながったのではないかと思っています」さらに解説は続いた。火の鳥 望郷編©TEZUKA PRODUCTIONS23

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