KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年3月号
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をしました。そしてビッグバン宇宙論から計算すると、宇宙の至る所にモノポールが存在するはずだ、と。しかし、宇宙初期にインフレイションのような大膨張期があったとすると、その宇宙膨張とモノポール密度の計算は単純なビッグバン宇宙論とはずいぶん変わって、現在われわれが観測できる範囲にひとつもなくともよいくらいの量になります。そして第20回の「地平線問題」です。このときは、櫂で風呂をかき混ぜる話でたとえました。宇宙が広すぎて、櫂の速度(光の速度)では均一にかき混ぜられない、ということでした。しかし、最初の宇宙がもっと小さかったなら? その小さい「風呂」なら充分にかき混ぜられて、そうして均一になったあとに、インフレイションによって膨張したら││それなら「インフレイション後」の地平線の向こうまで均一なのもありえる、ということです。このように、インフレイションによって、ビッグバン理論の問題点が一気に解決できるのです。インフレも悪いことばかりではありません。要するに貨幣価値が下がるわけですから、貯蓄(長所)の価値が下がるだけでなく、借金(短所、問題点)も激減するのです。では、そもそもインフレイションなどという現象が起こりうるのでしょうか。ここでもう一度宇宙年表をごらんください。インフレイションがはじまったときに、もうひとつのできごとが書かれているでしょう。そこには、「強い力が生まれる」とあります。力とその誕生については、第16回でお話ししました。そのときお見せした「力の統一と分岐」についての図も再掲します。原初の力が、強い力と、電弱力とに分岐した、その相転移が起きたとき、宇宙空間そのものも相転移を起こして、ここに、「真空のエネルギー」なるものが生じました。そのエネルギーが尽きるまで、インフレイションは続きました。さきほどお話ししたように、その期間はほんとうにごくわずかな時間で、つまりそのエネルギーはごく一瞬で尽きてしまったわけですが、その一瞬で、宇宙を一◯の三◯乗倍にも膨張させてのけたのです。これも第11回にて、重力と空間の関係を示したアインシュタイン方程式をご紹介しましたが、その中で、「重力は引力ばかりで、そのままだと宇宙は一か所に集まってしまうため、斥力(反発する力)の要素として宇宙項を入れた」というお話しをしました。そのときはあくまでも「宇宙は安定しなければならない」というアインシュタインの信念を基にした純数学的な要素であって、「宇宙項は具体的になにを意味しているのか」という自然科学的な説明がありませんでした。そのため、その後しばらくは宇宙項を無視した状態でこの式が扱われてきました。アインシュタイン自身、これを入れたことを「人生最大の失敗」と言いました。しかしこの「真空のエネルギー」なるものが実在するとなると、それはこの式の中でまさに宇宙項に相当するものとなります。アインシュタインの死後数十年を経て、宇宙項が華麗に66

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