観た数多の映画たちは、そんな木クズのようなボクに生きる力をくれた友であり、師である。この頃、よくそう思う。94年、友人の監督とプロデューサーから、『マークスの山』(95年)の冒頭で死体で発見されるチンピラ役にキャスティングされて、東京の静かな住宅街の道の真ん中で頭から血を流して倒れている事件現場ロケに参加できたのは、愉しい思い出だ。大の字に寝転がって呼吸を止めて身体を動かさなければいいだけの楽な場面だし、テスト中は死体のボクを取「映画」とは何だろう。映画を観る度に思ってきた。日々の憂うつを払いのけてくれたり、人生を励まされたり、ものごとの本質や人の有り様を教えられたり。時には宇宙の真理まで教わったり、映画は、ボクにとっては生きるためのエネルギー源だった。スクリーンの中にはいつも自由な世界が広がっていて、ボクの孤独を慰め、退屈を忘れさせ、明日を夢見るのだった。「映画」がなかったら、ボクは現実に打ちのめされるまま、どこに流れて何をしていたのか想像もつかない。今までにり囲む何人かの刑事役たちを薄眼で見上げながら観察するのも面白かった。主演の刑事役の中井貴一や、古尾谷雅人は深刻な表情を変えることもなく台詞だけを喋っていた。でも、上司役の笹野高史さんは、アドリブ台詞も交えた即興メソッドで見せる巧い役者だなと思った。東映の大部屋出身の川谷拓三さんが『県警対組織暴力』(75年)の、取調室でえげつない目に遭う場面で見せた全身全霊の演技には敵わないが、笹野さんの所作も人間味があり、刑事の中で一番井筒 和幸映画を かんがえるvol.48PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。46
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