KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年2月号
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ある時、市長さんが学校にやってきて、わたしたちに話された。まだ講堂も建っておらず運動場に座って聞かされた話。それは、「みなさん、お家に帰ってお父さんやお母さんに言って下さい。税金を払って下さいと言ってください」というもの。今なら考えられないが、戦後復興のための財源がよほど切迫していたのだろう。市内の小学校を巡回して話されたのだ。その時のことを、同じ西宮の瓦木小学校四年生の児童が作文にしており、『きりんの本・子どもの詩・子どもの作文』(理論社)という本に九人の作文が載っている。その一部を朗読した。  《(略)みんなげらげらわらいました。私もおかしいのでわらいました。  「ぜい金をおさめてくれへんたらこうどうもたててやらへん。ガラスもいれてあげへん――というようないじわるいことは、かわいいみなさんにいわへんけど……」というようなはなしかただったので、おかしくてしようがありませんでした。  「このあたまのはげた市長さんが、こんなにあたまをさげてんねんさかいに、市民ぜいをおさめるよう一つたのんでください。おとうさんやおかあさんは、なんぼいうてもおさめてくれませんので、もう市長さんはあいてにしません。けんど、かわいいみなさんは、きっとわたしのいうことをきいてくれるやろさかい、きょうはたのみにきました。かえったらよういうといて」といってかえりました。(成川弘美)》こんなのもある。 《市長さん、お元気ですか。ぼくはぜい金をおさめているとおもっていたのに、おかあさんは「してない」というので、すみません。お金がないのでこまっています。市ちょうさん、すみません。(田淵弘志)》切ない話だ。子どもにこんな思いをさせるなんて、と今なら大問題。この子どもたちの作文は、わたしの体験でもある。そんな時代があったのだ。■今村欣史(いまむら・きんじ)一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)、随筆集『湯気の向こうから』(私家版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会員。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。(実寸タテ17.5㎝ × ヨコ11㎝)93

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