KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年2月号
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流」が必要です。そして、粒子の速度にせよ、櫂の速度にせよ、いずれも光の速度は超えられないので、その「交流」が広がる速度は、最高でも光の速度です。時間が経てばそのうち均一にはなります-そのうち「地平線」が広がっていくように。しかし、現在の観測では、「地平線」が広がって、「暗黒」の状態からようやく見通せる状態になったかと思えば、その領域ではすでに「交流」は終わっていて、均一になってしまっている、という不思議な現象が見られるのです。いったい誰が、宇宙の広がりよりも速く宇宙をかき混ぜたのでしょうか?これが、第三の問題、「地平線問題」です。前々回の「平坦性問題」、前回の「モノポール問題」とあわせ、この三つの問題は、単純なビッグバン理論では説明のつかないものでした。では、ビッグバン理論は間違っているのでしょうか。いいえ、そうではありません。ある驚くべきメカニズムを導入することで、これらをまとめて解決することができるのです。それを、次回、お話ししましょう。PROFILE多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。第14回でも掲載した、COBEによる宇宙背景輻射の全天測定結果を画像化したもの。図では「むら」が大きいように見えるが、これはごく小さな差を強調しているため。実際にはほとんど均一。Courtesy NASA/JPL-Caltech64

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