邦画は他愛ない内容を思わせる題名ばかりで観る気がしなかった。大人たちが銀幕の中の世界にはまりこんで愉しむ、そんな映画らしい映画はなくなっている。クーポン券のようなネットドラマが氾濫する傍らで、劇場映画の時代は終わりかけているようにも思う。テレビやパソコン画面でスジを追うだけでは映画の魅力は伝わるはずがない。荒野を彷徨う主人公の孤独に感情移入して笑ったり泣いたりすることもないだろうし。映画館に観客がわれ先に駆け込んだ邦画全盛期、60年代最近、よく思うことだが、映画館に足を運びたくなるような映画が、少なくなった。去年、映画館で観たのは『オッペンハイマー』と『シビルウォー アメリカ最後の日』だけだ。前者は原爆を発明した科学者の伝記モノだが、科学者は日本に原爆を落としたことに反省しているようには見えなかったし、何とも憂うつだった。後者はアメリカ国民が大統領の独裁に従う派と抗う派で戦争する話だが、少しもカタルシスは感じなかった。「アメリカ最後の日」という付け足しの邦題も余計だった。前期に監督デビューした若きホープたちの話に戻りたい。彼らがどんな助監督時代を送り、映画と向き合っていたのか。ボクはその一人の篠田正浩監督に番組進行役を頼んで、同時代の作家たちを訪ねた。真っ先に取材したのは鬼のイマヘイこと今村昌平だ。「戦後の闇市をうろついていた学生時代に黒澤明の『酔いどれ天使』(48年)を観てね。新人の三船敏郎のヤクザはバタ臭い感じがしたけど、ドキュメンタリーみたいな迫力でね。映画監督はいい仕事だなと思ったんだ」といきなり語って井筒 和幸映画を かんがえるvol.47PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。48
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