フィクションだが、森見本人も登場するだけに、「この部分は本当の話では?」と想像しながら読むのも楽しい。たとえば守田の手紙にこんな一節がある。《大学を卒業された森見さんの、上京区・左京区をまたにかけた、主に机上のご活躍、つねづね遠巻きに拝見しております。森見さんが綴られるへんてこな文章は、かつてあの部室の片隅にあったノートに記されていた文章と瓜二つ、俺を青春の暗がりへ引きずりこんだ元凶が全国津々浦々へ垂れ流されることになろうとは、いったい誰が想像し得たでしょうか》この書簡体小説が紡ぎ出されていく着想はどこから発しているのか?「大学時代、ライフル射撃部に入っていたのですが、部室に連絡事項などを引き継ぐ『公用ノート』森見 登美彦(もりみ とみひこ)1979年、奈良県生まれ。2003年、京都大学在学中に執筆した『太陽の塔』で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。07年『夜は短し歩けよ乙女』で第20回山本周五郎賞を受賞、第4回本屋大賞2位を獲得した。10年『ペンギン・ハイウェイ』で第31回日本SF大賞、14年『聖なる怠け者の冒険』で第2回京都本大賞を、17年『夜行』で第7回広島本大賞を、19年『熱帯』で第6回高校生直木賞を受賞。他の著書に、「有頂天家族」シリーズ、『四畳半タイムマシンブルース』『シャーロック・ホームズの凱旋』など多数。23
元のページ ../index.html#23