歳まで文学界の第一線で書き続けてきた。「現実の今の自分は、かつて学生の頃に思い描いていた作家像とは違う」と、目の前で包み隠さずに本音を打ち明けるが、一方で、創作への情熱は変わってはいない―と、その澄んだ瞳が物語っている。威張ってもいいはずの錚々たる実績を残しながらも決してそうはならないのは、新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。第51回は、一昨年、作家デビュー20周年を迎え、今、最も新作が注目される小説家、森見登美彦の登場です。新作を書く前はいつも不安…謙虚な作家の恋文小説から見える書く技術THESTORYBEGINS-vol.51■小説家■森見 登美彦さん⊘ 物語が始まる ⊘「作家としてデビューしたとき。20年経ったら、きっと〝ベテラン臭しゅう漂う、風格をたたえた大作家〟となっている自分の姿を想像していたのですが、いざ、現実に20周年を迎えてみると…。まったく想像とは違いましたね」と森見登美彦は苦笑しながら、今の心情を素直に吐露した。とはいえ、現役大学生として作家デビュー以来、46作家生活20年の自信と不安…今から22年前の2003年…。鈴木光司や恩田陸、小野不由美ら名だたるベストセラー作家を輩出してきた登竜門『日本ファンタジーノベル大賞』を獲得。その受賞作『太陽の塔』で鮮烈な文壇デビューを飾った。それから22年…。文・戸津井 康之撮影・服部プロセス20
元のページ ../index.html#20