す。実際、磁石の近くは磁場が強いでしょう。磁石から離れると磁場が弱くなるのは、磁力線がまばらになることで表現されています。ここで、ある瞬間に磁場が発生することを考えます。なにもないところからいきなり磁石が現われるのは考えにくいですが、たとえば電磁石であれば、電流を流したときだけ磁石になるので、電流をオンにすることで「磁場が発生する瞬間」を考えやすいです。この瞬間に磁力線はN極から出てS極に入ります。しかし、言葉では「瞬間」と言っても、どんなことにもそれが起きるには時間がかかります。磁力線が延びていくにも時間がかかるのです。この宇宙では、光の速さが最速で、それを超えることはできません。磁力線が延びていくのも光の速さであって、それより速くなることはありません。光の速さは、我々人間から見ると気の遠くなるような速さですので、日常生活では「瞬間」と考えてもいいのですが、やはり気の遠くなるような大きさの宇宙では、これが問題になってきまので、磁石でなくなってしまいます。やはり「N極だけ」「S極だけ」を取り出すことはできないのです。このような、NS両極が対になったものを「双極子」、「ダイポール(dipole)」と言います。「di」とはラテン語で「2」のことで、「極(pole)が2つ」という意味です。いっぽう、「N極だけ」「S極だけ」というものは、ラテン語で「1」を示す「mono」から「モノポール(monopole、単極子)」と言います。ところで、この磁場というものは目に見えないので、人間は「磁力線」なるものを考え出して、これを使って磁場を表現しています。磁力線は、N極から出てS極に入ると定義されています。その線の向きが磁場の向きを表わし、磁力線の密度が磁場の強さを表します。たとえば、図の左側にダイポールがつくる磁場を磁力線で示しますが、N極から出てS極に入っているのがわかると思います。磁力線はちゃんと「入口(S極)」と「出口(N極)」がセットになっています。また、極の近くは磁力線が密になっていて、磁場が強いことを示していま「磁石はとても小さい磁石が集まってできているから」と教わったかも知れません。これはその通りで、その磁石を構成する分子ひとつひとつが磁石となっているのです。分子やそれを構成する原子については第3回でお話ししましたが、原子は原子核を中心に電子がその周りの軌道を周回しているため、この電子の動きが磁場を生むのです。ではこの分子を割ってしまうとどうなるかと言うと、それはもはや違う物質になってしまう79
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