KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年1月号
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ている。劇伴(劇中の音楽)への徹底したこだわりも黒澤譲りだ。劇伴は、『阿弥陀堂だより』や『明日への遺言』、前作の『峠 最後のサムライ』などを手掛けた小泉組常連の音楽家、加古隆。「今回はチェロとアルト・フルート、ピアノを使った楽曲を依頼しました」と言う小泉監督の期待に応え、加古の楽曲が奏でる静かで、かつ荘厳な調べが重厚な映像に寄り添う。また、タイトルバックで映し出される力強い『雪の花』の題字は、黒澤映画『乱』などの題字で知られる書家、今井凌りょうせつ雪の弟子、星弘こうどう道が揮毫している。『赤ひげ』を見て衝撃を受け、黒澤組に入った小泉監督。この『赤ひげ』の主人公を演じたのは黒澤の盟友、三船敏郎だった。人の命を救うため、無私の精神で己の命を削る名も無き医師、新出去定―を三船が熱演した。その55年後の2025年…。私財を投げ打ち、多くの命を救った無私の精神の魂を持つ医師、笠原良策―を実力派の松坂桃李が演じ、黒澤の愛弟子がメガホンを執った映画が、今年公開される。黒澤監督から小泉監督へ…。日本人が忘れてはならない〝無私の精神〟を師弟が映画で次代へと繋いでいく。それは師弟に託された宿命のようでもある。そう向けると、小泉監督は「言われてみればそうですね。でも、とくに『赤ひげ』を意識して撮ってはいませんよ」と柔和な笑みを浮かべて謙虚に否定された。現在80歳。だが、長身で堂々とした体格も、まるで師匠譲りで衰えを見せない。「幸いなことに、とくに病気もなく身体は健康です。撮れる限り、映画を撮りたいと思っていますよ。歴史上には〝会いたい人〟がまだまだいますからね」前作『峠―』は2020年の公開予定が、コロナ禍、3度の延期の末、当初の予定から1年9カ月遅れで2022年に公開された。「公開されるまでは、次の作品の準備には入れない」と律儀な小泉監督は〝時〟を待った。満を持して完成した新作がついに公開される。『雪の花 ―ともに在りて―』■監督:小泉堯史■脚本:齋藤雄仁 小泉堯史■音楽:加古 隆■原作:吉村昭「雪の花」(新潮文庫刊)■出演: 松坂桃李 芳根京子 三浦貴大 宇野祥平 沖原一生 坂東龍汰 三木理紗子 新井美羽 串田和美 矢島健一 渡辺哲/益岡徹 山本學 吉岡秀隆/役所広司■配給:松竹©2025 映画「雪の花」製作委員会2025年1月24日(金)全国公開27

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